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感想「殺人犯はわが子なり」

「殺人犯はわが子なり」 レックス・スタウト ハヤカワ・ポケミス
ネロ・ウルフもの。ほんとは去年の10月に読んでしまっている本なのだけど、ちょっとまとめときたいことがあるので、それを込みで。

ミステリマガジン(1981年6,7月号に2回分載)掲載時に読んでいるが、かなり以前なので、内容はほとんど忘れていた。
本格物というよりは捜査小説に近く、謎解きの要素はかなり薄い。登場人物の掛け合いの楽しさや、展開の切れの良さに、このシリーズの愉しさは充分に出ているのだけど、クラシックな名探偵ものを期待して読んだ読者がいたら、納得しないだろうな。
訳文はミステリマガジン(以下HMM)連載時から、微妙に手が入っているが、基本的には同じもの。なのに訳者名が違うのはちょっと不思議。HMMでの翻訳は汀奈津子。ポケミス(以下HPB)は大沢みなみ。
なお、最後の方で、少し細かく手が入っている所があることに気付き、HMMの旧訳の方が意味が通っていたので、たまたま持っていた原文(AVENEL社版)と較べてみた結果が以下。

気付いた点は2ケ所あって、まずウルフが5万ドルの報酬を3分割する場面。
HMMの訳「これで残額は16,666.66ドル及び必要経費となった」
HPBの訳「これで残額は16,666.66ドル及び必要経費1セントとなった」
原文「That left $16,666,66, plus expenses, …」
HPBの「1セント」というのは、一体どこから出て来たんだか? HPB版は、文章の内容的にも変なので、確認してみたら、こういうことになっていた。

一方、旧訳の方が誤りと分ったのは、エンディング。
HMMの訳「一瞬、彼女はこのまま出て行こうかと考えた。ぼくもそうだった。しかしもどってきた彼女のほほにはきれいなピンク色が広がっていた。ぼくはなにかいった。なんといったかは憶えていない」
HPBの訳「一瞬、彼女はキスしようかと考えた。ぼくもそうだった。しかし、そのほほにきれいなピンクが広がるにつれて、彼女はたじろいだ。ぼくはなにかいった。なんといったかは憶えていない。この女性には良識があった。世の中には引き受けるには大きすぎるリスクというものがあるのだ」
原文「…、and for a second she thought she was going to, and so I did. But as pink started to show in her cheeks she drew back, and I said something, I forget what. That girl has sense. Some risks are just too big to take.」
旧訳は、「draw back」の翻訳を間違えているみたい。それに引きずられて末尾の文章がうまく訳せなくなり、しらばっくれて削ってしまった、のかな? これは旧訳の終り方が余韻があって好きで、記憶の底に残っていたので気付いた。旧訳の方が間違いというのは、ちょっと残念。

原文で全部読み直す根気はないし、読んだとしても、こっちの英語の読解力では、翻訳の半分も理解出来ないはずだから、難癖付けようという気もないけど、怖いなとは思う。翻訳ひとつで、登場人物の人物像が変ってしまってるんだものな。もっとも、原文の方も複数の版がある、という可能性もあるのだけど。

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