感想「リガの犬たち」
「リガの犬たち」 ヘニング・マンケル 創元推理文庫
クルト・ヴァランダーもの2作目。スウェーデン南部の田舎町を舞台にした警察小説のシリーズ。もっとも本書は、ヴァランダーがソ連崩壊前夜のラトヴィアへ赴き、事件の主要な部分はそこで繰り広げられる。マルティンベックのハンガリー遠征を思わせるが、バルト海対岸での重大事件に作家としての好奇心を刺激されたのか。(1992年刊)
前作は陰気な作風だったが、舞台がラトヴィアに移ったことで、いよいよその傾向が強い。作風にそぐわないドジ刑事のヴァランダーも、いきなりあくびして顎が外れる以外、あんまり面白いことをやらないし。やたらと惚れっぽいのは相変わらずだが、警察小説というよりは、異国で一人、陰謀に立ち向かうヒーローのような役回りなので妙に格好良かったりする。
その分、ラトヴィアの陰欝さが際立つ。独立前後という言葉から想像する熱っぽさはなく、不透明感ばかりが強調されるのは、この「独立」が、共産圏国家の将棋倒しのような瓦解から生まれた、突発的な出来事だったからということか。ただし、もちろんマンケルはスウェーデンの作家なので、どこまで本当のラトヴィアの姿を描き出せているのかは分からないとは思う。
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