感想「箱の中の書類」
「箱の中の書類」 ドロシイ・L・セイヤーズ ハヤカワ・ポケミス
これも古本屋で妙に安かったので買ってしまった。唯一のウィムジイ卿ものではない長篇だそう。
1930年の刊行なので、レトリック的な部分や謎解きで使われる科学知識などはさすがに古臭さがあるし、プロット自体もそれほど意表を突いたものではない。構成的に目を引くのは、全篇書簡から成るという特殊性くらいか、とも思う。
ただ、複数の視点から浮き彫りにするように描かれる登場人物の人物像にはさすがに厚みがあり、それがすべてを救っている感じがする。気取った言い廻し(書簡なので、それも登場人物を描く一環なんだけど)がやや鼻に突く序盤を除けば、読んでいて引き込まれるようなサスペンスだった。雪崩れ込むようなエンディングも迫力。ちょっとルース・レンデルを思い出した。もちろん、あっちの方がまるっきり後だし、レンデルなら、もっと破滅的な結末を用意しそうではあるけど。
ところで、P86下段の「二軒の家」というのが、何を指すのか判らなかった。伏線か?、と思ったけど、そうでもなく、結果的に少しミスリードされた。誤訳の可能性もあるか?
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