感想「準急ながら」
「準急ながら」 鮎川哲也 光文社文庫
鬼貫警部もの。小一時間電車に乗る前に、車内用にKIOSKで買って読んだ。こういう機会でもないと読まない作家なので。でも、これは代表作の一つなのかな? 以前から書名は知ってたけど。
(日本の?)本格ミステリに対する批判というと、人間が描けてないとか、トリックがわざとらしいといった辺りだと思うのだけど、まさしくそのものという感じ。ただそれは、そもそも作家自身が、そういう小説を書こうとしていないという理由によって、批判として意味を成さないだろうとも思う。やりたいことは、論理的に漏れのないパズラーを書くということだけなんじゃないんだろうか。そういう観点からは、かなりよく出来ている作品。そうはいっても、登場人物があまりにも不自然な行動を取り過ぎるし、それに対して、そういう行動を取ることになった必然性を、言い訳がましく長々と書き並べるあたりも、作品の力を削いでいる気がする。本来は、開き直るか、言い訳の必要がないほど、自然な状況を作り上げるべきなんだろう。だから、この作品はまるっきり駄目、とは考えないけれど、傑作ではないだろうとは思う。
もっとも、不自然さを割り切って読めば、整合を心掛けて書かれているだけに、建築物の構造を見るように、小説の組立てが見える面白さはある。
また、作中、描写がある犬山や伊豆など、以前、行ったことのある場所が出て来るくだりは、情景がよく分るので面白く読めた。鉄道もののミステリなんかは、そういう面白さでも読まれているんだろうな。
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