感想「Mr.クイン」
「Mr.クイン」 シェイマス・スミス ミステリアス・プレス文庫
「わが名はレッド」にあった社会派を思わせる要素は抜け落ちた、ミもフタもない極悪な計画犯罪遂行もの。主人公は資産家の財産乗っ取りのために、恨みがあるわけでもなく、特別悪人というわけでもない人々を、容赦なく殺し、陥れて行く。刊行順としてはこっちの方が先だから、話題性を意識して突出した小説を書いたという可能性もあるかも知れないが、根本的にこういう非道な小説を書く作家と考えて、間違いはないのかも。
ただ、衝撃的な導入部の割には、読んでいくうち、案外抵抗がなくなる。主人公の飄々とした一人称で書かれているからで、被害者は突き放して描かれ、感情移入の対象になりにくい。うまいんだけど、考えようによっては、結構怖い。
反モラル的という一点で、賛否両論になりそうな気がする小説だが、出版当時はどうだったんだろうか。所詮、犯罪小説なんて反モラル的なものなのに、上っ面を取り繕ってモラル的なふりをしがちなことに対するアンチテーゼとして、痛快さは感じないでもないが、一方で、殊更に悪ぶってる手付きが見えるような気もする。判断しにくいのは「わが名はレッド」に同様。
好きではないけど、読ませる小説ではあるかも知れない。
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