感想「ディープサウス・ブルース」
「ディープサウス・ブルース」 エース・アトキンス 小学館文庫
ニック・トラヴァーズもの。シリーズ第1作の「クロスロード・ブルース」が既訳(00年、角川文庫)で、たまたま昨年読んでいた。登場人物は「クロスロード・ブルース」とかなりかぶっており、あちらを読んでいないと、本書の背景は見えにくかったんじゃないかと思う。いいタイミングで続巻が出た。
主人公はブルースの研究家で、小説もブルースを題材にしている。舞台はアメリカ深南部で、背景を反映して泥臭く血なまぐさい小説なのだけど、それが案外もたれないのは、事件を描く以上に、ブルースの世界を描くことを作者が楽しんでいるからかという気がする。
もうひとつ、2人組の殺し屋の特異な人物像を筆頭に、登場人物が戯画化されていて、あまりリアリズム的に描かれていない所も影響しているかも知れない。その辺は、いかにも南部を舞台にした小説らしく、現実と幻想の間をさまよっているような奇妙な雰囲気。
オーソドックスな展開の人探し小説だが(15年前に失踪した有名なブルースシンガーを探すうちに、事件に巻き込まれる)、そうした独特な味付けがこの小説を特別なものにしている感じ。
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