感想「殺しの接吻」
「殺しの接吻」 ウィリアム・ゴールドマン ハヤカワポケミス
「殺しの接吻」という映画は、故・瀬戸川猛資が賞賛していて、瀬戸川のフォロワーだった頃(今は違う)、見たくてたまらなかったのだけど、結局いまだに見る機会がない。その映画に原作があって、しかも著者がウィリアム・ゴールドマンと来れば、読まない訳には行かない。
もっと地味なサスペンスを予想していたので、少し意外な内容だったが、「マラソンマン」のゴールドマンと思えば納得。もっとも、登場人物や事件の特異さは、刊行当時(1964年)は衝撃的だったかも知れないが、サイコサスペンスが乱発されている現在では、それほどでもないレベル。それでもなお、印象に残るのは、それを描くスタイルが特有のものだからだと思う。説明的に書き込まず、突き放すようなスタイルを採ることで、読者の想像力が働く余地が生まれ、深みが増している。もちろん、説明的に書かなくても、小説としてきっちり成立させられる筆力があってのことだけど。
殊更に書かれていないだけに、かえって登場人物の思いが、後々まで思い出されるタイプの小説だと思う。
| 固定リンク
「小説」カテゴリの記事
- 感想「イマベルへの愛」(2022.05.03)
- 感想「世界推理短編傑作集6」(2022.04.20)
- 感想「殺人は自策で」(2022.03.23)
- 感想「ロールスロイスに銀の銃」(2022.03.12)
- R・A・ラファティ(2022.02.27)
コメント