感想「ロックンロール・ウイドー」
「ロックンロール・ウイドー」 カール・ハイアセン 文春文庫
左遷されて閑職に就いている新聞記者が、かつての大物ロック・ミュージシャンが事故死した事件に興味を持って、突つき始めるという話。
変な登場人物たちが繰り広げる、スラップスティックな犯罪小説という趣は、いつも通りだけど、ハイアセンが初めて(らしい)一人称で書いていて、その影響はかなり大きかったように思える。変な奴らのキレっぷりが、三人称の時より激しくない気がする。変な奴を客観的に見るのと、仮想的にではあっても誰かの主観を通して、ある程度合理化された状態で見るのとでは、おかしさの質が違うからじゃないだろうか(特に主人公自身のおかしさの伝わり方は、全然違って来ると思う)。しかもハイアセンの小説は、世の中の不正に対する憤りがベースにある、本質的には非常に真面目なものなので、一人称にすることでそれが色濃く出て、コミカルなバカ話という要素を薄める方向に働いているのでは。
ただ、その一方で、ストーリーの流れが一本である分、整理されたすっきりした小説になっているようにも感じる。本書をハイアセンの最高傑作に推す評も見たことがあるのだけど、そういう見方もありかな、と思った。自分自身では、スラップスティックな味が濃い方が好みなので、「珍獣遊園地」や「殺意のシーズン」とかの方が好きかな、と思うけど。
なお、本書には「スキンク」が登場しない。「スキンク」小説の登場人物が脇役で登場するという手も、多分、使ってないと思う(やや自信がないが)。そういう意味でも、ハイアセンの小説としては、特別な作品。
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コメント
ハイアセンは、『大魚の一撃』で、こんな作家がいるのか、と驚きました。
ユーモラスで自在な作風が贔屓です。
また、わたし個人の中では、勝手にフロリダ・ミステリというジャンルがあって、そのコアの部分にいる作家でもあります。
『ロックンロール・ウィドウ』も、楽しめました。
しかし、出版社がまた変わりましたね。
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投稿: 蜜蜂 | 2004.12.26 13:07
フロリダ・ミステリというと、ウィルフォードも入るわけですね。(あとは、トラヴィス・マッギーあたりが思い浮かぶが、少し古過ぎるか) キューバ・マフィアなんかが絡んだ、必要以上に暴力的な小説は苦手なんですが、ウィルフォードやハイアセンみたいな、洒落っ気のある作風が似合う土地柄のようにも思います。舞台としては、結構、好きな方です。
投稿: wrightsville | 2004.12.26 23:27