感想「アジアの岸辺」
「アジアの岸辺」 トマス・M・ディッシュ 国書刊行会
ディッシュの短篇集。日本で編纂されたもので、編者は若島正。SFというよりは、いわゆる「奇妙な味」(帯にも、この表現が使われている)の短篇が集められている。
冒頭の「降りる」で、日常的な空間から異常な世界へ入り込む手際の良さに、痺れたようになった。他には、そこまで衝撃を受けた作品はなかったけれど、どれもとても巧い。ディテールがしっかりしている一方で、必要以上のことは書いていなくて、無駄がないので、著者の意図が突き刺さって来るような感じを受ける。大半の作品が、何かを諷刺したり、揶揄したりしているというところが、そういう印象を受ける理由の一部かも知れない。逆に言えば、そういう作風にふさわしい筆致を、ディッシュは完璧に身に付けているという感じ。とてもスタイリッシュ。
ディッシュは長篇はいくつか読んだけど、短篇はほとんど読んだことがなかったはず。こんなに巧かったのか。確かに、長篇もとても巧く書く作家だけれど、短篇の切れ味ってのは、また別のものだから。こんなに感心した短篇集を読んだのは、久しぶり。
「降りる」以外では、「アジアの岸辺」と「第一回パフォーマンス芸術祭、於スローターロック戦場跡」が、特に好きかも知れない。
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