« 感想「古地図に魅せられた男」 | トップページ | おせち料理 »

感想「毒蛇」

「毒蛇」 レックス・スタウト ハヤカワミステリ文庫
言うまでもなく、ネロ・ウルフものの第一作。
当然、初読じゃない。初読以降も、本に眼を通したことなら、何度もあるが、ちゃんと頭から読み通したことは、そんなにないはず。かなり久々に読み返した。ここんとこ、比較的新しめのウルフものばかり読んでいたので、ちょっと初心に帰ったような感じ。

前から考えてたことだけど、この本の第一章、というか、最初の数ページは、ミステリ史上屈指の名場面じゃないかと思う。ここからウルフものが始まった、ということだけじゃなく、この冒頭の部分の語り口の素晴らしさにかなう小説は、ほとんどないんじゃないだろうか。軽妙で冗談めかしていながら、登場人物を的確に紹介しつつ、小説の本篇へしっかりとつなげていく。もっとも、ウルフものの中で探せば、これに近い印象的な場面は他にも見つかるかも知れないけど、それは言わば二番煎じなわけで。それらが存在するのは、「毒蛇」のこの場面があるからなんだし。

「毒蛇」を読んで、それで違和感しか覚えないなら、他を読む必要はないのかも知れない。比喩的にではなく事実として、「毒蛇」には、このシリーズの全てがあると言っても過言じゃないと思う。読み直して、改めてそう思った。

ウルフものの作品には時々あるパターンだが、これは犯人探しよりは、捜査の過程と、いかに犯人を追い詰めるかを描く所に焦点がある小説。必然的に論理よりは登場人物の個性が前面に出て来るし、そこをスタウトが、本当に巧く書いている。謎解きのプロットだけを追っていたら、大して面白味はないはずだし、日本で人気が出なかった理由も、多分、その辺にある。
人物を描くと言っても、社会派小説みたいに、ビンボくさくもない。その辺が、多分、日本で人気が出なかったもう一つの理由。実在の人物のような肌触りを残しつつ、必要以上に生活感を漂わせない、そういう小説世界だが、ガチガチのリアリズムでも、まるっきりの絵空事でもない、というあたりが、中途半端に感じられたとしても不思議じゃない。自分自身、ユーモラスな部分に引かれて、ウルフものを読み始めたが、本当に面白いと思い始めたのは、ある程度、数を読んで、作品世界に馴染み始めてからだったものな。
でも、たとえば、アンナ・フィオレのような人物の描き方が、これでいいのかな、というくらいは思うけれど。まあ、昔の小説ではある(1934年刊)。

以下は、トリヴィア的な話。(書いておかないと、自分でも忘れてしまうので(^^;)
H.R.コーベットというウェストチェスター郡の刑事が登場するが、これは「アルファベット・ヒックス」に出て来るウェストチェスター郡の地方検事・ランドルフ・コーベットと何か関連があるんだろうか。
ウルフの手伝いで、ソール、フレッド、オリー以外に、ビル・ゴーアが登場する。ビル・ゴーアは、何冊かに出た後で、姿を見なくなったという印象があるが、正確な所は一通り読み直してみないと何とも言えない。アメリカではいろいろと出ていると聞く、ウルフに関する研究書とかを見れば、一発で答えが出るんだろうけどな。
なお、クレイマー、ロン・コーエンは未登場。パーリー・ステビンズは少し姿を見せている。

|

« 感想「古地図に魅せられた男」 | トップページ | おせち料理 »

「小説」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/3787/7918771

この記事へのトラックバック一覧です: 感想「毒蛇」:

« 感想「古地図に魅せられた男」 | トップページ | おせち料理 »