« オープン戦ヤクルト対オリックス | トップページ | オープン戦ヤクルト対中日 »

感想「悲劇週間」

「悲劇週間」 矢作俊彦 文藝春秋
前世紀(^^;初頭の革命下のメキシコを舞台に、主人公の堀口大學が、ロマンスや世界の現実や理想主義的な革命の破綻に遭遇していく話。主人公の純粋さは、読んでいて痛々しいくらいで、こういうのを青春小説というんだろうな、と。
元々、印象的なシーンの描き方やスタイリッシュな人物造型が非常に巧い作家だけれど、壮大でロマンティックとも言える舞台を用意したことで、その持ち味が最大限に発揮されている感じだ。むやみやたらと美しくて格好がいい。ただ、こういう矢作らしさってのは、女の人にはどう受け取られるんだろう。本書のヒロインのフエセラなんかも、素敵なのか、鼻で笑われちまうのか(^^;、どっちなんだろうな。人にもよるのかも知れないが。

テーマとしては、理想主義と現実の葛藤ということになるんだろうか。考えてみると、矢作の近年の小説の大半は、ほとんどそれがテーマなのかも知れない。「ららら科學の子」にしても「スズキさん」にしても。理想主義は現実に勝てないし、むしろしばしば凄惨な悲劇を生むことにも通じるけれど、それを承知した上で、なお理想を追い求める、というような在り方を、矢作は一貫して描いているように思える。そもそも、(ごく一般的な定義の)ハードボイルド小説ってのも、そういうものかも知れない。

で、本書はそのテーマの上に、メキシコ革命を描き、パリ・コンミューンに言及し、その背景には(というか、一番描こうとしているのは、こっちの方だと思うが)戊辰戦争以降の明治の日本の姿が置かれている。明治の日本をどう位置付けるか、というのは、ある程度真剣に日本とは何かということを考えていくと、行き着かざるを得ないテーマのように感じる。矢作の近年の著作には、現代の日本への考察を含むものが多いし、この小説はそこから必然的にたどりついたものなのかも知れない。あと、矢作には以前、「海から来たサムライ」という、明治期の日本を遠景に置いた娯楽小説(共作だが)もあるし、この辺は元々関心のあるテーマでもあったんだろう。ちなみに本書の序盤は、「海から来たサムライ」の出来事(アメリカのハワイ侵略)が背景にある。

ものすごく大雑把な言い方をすると、明治の日本には理想(というか正義)はなく、その代わりにリアリズムがあり、それによって日本は生き延びたかも知れないが、義の無さが最終的には日本を太平洋戦争での破綻へ導いた、というような認識が、本書の中心にはあるように思える。

テーマ的なもの以外について。本書の内容の大半はフィクションだろうけれど、こういう話を構想出来るような波瀾に富んだ経歴が、堀口大學にあったとは、全然知らなかった。というか、堀口大學のことなんて、元々ほとんど知らなかったけれど。長岡の出というのは、どこかで聞いた覚えがある。一番最初の方に出て来る、長岡出身の祖母が喋る言葉が、越後の言葉の雰囲気をうまく出していて、面白かった。

|

« オープン戦ヤクルト対オリックス | トップページ | オープン戦ヤクルト対中日 »

「小説」カテゴリの記事

コメント

サッカーにおける一連のコラム、いつも愉しみにしておりましたが、矢作作品への言及恐れ入りました。これからもこのコラム楽しみにしております。団塊のADサポーターです。

投稿: | 2006.03.15 01:31

コメントありがとうございました。
本の感想は、どちらかというと、何を読んだか忘れてしまった時に備えて、とりとめなく書いているものなので、内容が妥当なのかどうなのか等、あまり自信はないのですが、読んでいると言っていただけるのは、やはり有難いです。
サッカーの感想も、基本的には似たようなものですが、アルディージャについては、私はかなり斜めに見ているので、お気に障る部分があるのではないかと、少し気に掛かります。

投稿: wrightsville | 2006.03.16 00:11

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/3787/9094043

この記事へのトラックバック一覧です: 感想「悲劇週間」:

« オープン戦ヤクルト対オリックス | トップページ | オープン戦ヤクルト対中日 »