感想「赤い箱」
「赤い箱」 レックス・スタウト ハヤカワ・ミステリ文庫
ネロ・ウルフものの4作目。これも久々の再読。内容をろくに覚えてないのも同様。
ここまでウルフ物の初期作を刊行順に再読して来ていて、それで初めて気がついたけれど、本書はここまでの集大成的な作品のよう。これ以降は「料理長が多すぎる」「シーザーの埋葬」「我が屍を乗り越えよ」と異色篇が続いていくことを考えると、スタウト自身にも実際にそういう意識があったのでは、という気がする。もしくは、本書を書くことでシリーズの落ち着き所が見えてしまったので、次作以降で、新たな方向を模索する必要性を感じたか。
訳者があとがきで書いている通り、構成面で「毒蛇」を感じさせる所が多いこととか、過去の作品への言及が多いことに、それを感じたのだけど、本書に関しては、それがマンネリではなく、スタイルを磨き込んだ完成度の高さに見えているように思える。ここまでの長篇では一番良い出来の作品じゃないかな。「ラバー・バンド」では肝心の所が、謎解きのための謎解きになってしまってる印象を受けたが、その辺も「赤い箱」ではうまくクリアされて、うまくストーリーに組み込まれている感じ。
最初の被害者が、ただ巻き込まれただけの存在であることとか、第一次世界大戦後の混乱が事件の遠景にあることなどが、全体としてストーリーに陰影をもたらしている印象を受けた。結末にも微妙に影がある。
ウルフがユーゴスラヴィアに甥だか姪だかが居ることをほのめかす場面があって、これは「我が屍を乗り越えよ」の伏線になってる。もうひとつ、エジプトに貰った家があると言う場面も、同程度に伏線くさく見えるのだけど、こっちの話は書かれずに終ったのかな。
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