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感想「悪魔の栄光」

「悪魔の栄光」 ジョン・エヴァンズ 論創社
ポール・パインもの2作目。
容易に「マルタの鷹」を思い出させるストーリーだし、前作以上に、いかにもな展開だし、なんだかパロディみたいだな、と思った。多分、その印象は、そう的外れでもないんだろう。巻末に法月綸太郎が詳細な解説を書いているが、彼もそういうようなことを書いていると感じた。いや、彼はパロディとは言ってなくて、もっとポジティブな捉え方だが。
確かに、作品が世の中に出た順番は考えるべきなんだろうと思った。それを考慮に入れるなら、このシリーズが類型的なハードボイルドに見えるのは、戦前のハメットやチャンドラーの小説のエッセンスを、それだけ見事に掬い取っているからだし、戦後の通俗ハードボイルドは、このシリーズを拡大最生産して行ったものだから、と言えるのかも知れない。
前作同様、プロットはきっちり組立てられているし、ある意味、前作よりもうまく作られていると思う部分もある。ハードボイルドという枠を楽しみながら、小説を書いているような気がしないでもない。思えば前作はどことなく、無理矢理悲痛な小説に仕立て上げているような感じがないでもなかったが、本書はネタが宝探しなので、肩の力も抜けているのかも。その辺を考えていくと、ファンが高じて書き手に廻った面もあったのかな、とも思えて来る。そう考えると、一見、不似合いに思える法月の解説は(彼がハードボイルドに詳しいことは知ってるが)、案外適任なのかも知れない。彼自身、そういう出自の作家なので。
翻訳の文章は、現代風だがいまひとつ練れていないように思えた。「血の栄光」とどっちがいいかは微妙。ただ、今風の文章にもかかわらず、古めかしさはいくらかあった。やっぱり原文に古さがあるということなのかな。
(2006.11.8読了)

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