感想「真鍮の栄光」
「真鍮の栄光」 ジョン・エヴァンズ ハヤカワポケミス
ポール・パインもの3作目。これも20年振りくらいの再読。
これも、枠組としては典型的な私立探偵ものだなと思った。行方が分からなくなった娘を捜すよう、両親から依頼されて、探って行くうちにヤバい事件に入り込んで行く、というパターン。ある意味、ハッタリの効いた出出しから始まる「血の栄光」(そのハッタリが最後で意味を持って来るという所に「ミステリらしい」工夫がある)、キリストの直筆の文書という宝探しが中心にある「悪魔の栄光」に較べ、一番、オーソドックスなパターンと言えるかも。ただ、失踪した娘が、自分の写真を全て破棄していたという所に、ひとつ謎があり、これがストーリー作りに役に立ってると同時に(探す相手の顔が分からないという難しさが生まれて来る)、事件の性格にも関係してくるというところが、よく考えられているなと思う。相変わらず、しっかりしたプロット(途中、論理に飛躍があるかな、と思う部分はあるが)。
最後には、事件の関係者を一同に集めての犯人指摘のシーンがあって、まるで本格ミステリのような、と思わせた(ネロ・ウルフがよくやるような形)。このシリーズは、3作続けて読んで、ミステリの基本を非常に意識したシリーズなんだな、ということが、よく分かった。そこが、軽いプロットの通俗ハードボイルドと、大きく違う所なんだろう。ある意味、チャンドラーあたりよりも、プロットへの意識は高いんじゃないんだろうか。
ちなみに本書では、弱者やマイノリティに対する同情の意識が感じられた。ここまでの2作ではあまり感じなかった要素。扱う事件の内容の違いもあるが、幾分、作風が変っているようにも思える。考え過ぎかな。
(2006.11.11読了)
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