感想「水滸伝」1〜3
「水滸伝」1〜3 北方謙三 集英社文庫
北方謙三の「水滸伝」。全19巻の刊行が昨年始まって、出る都度読んでたけど、感想を書きそびれていた。いまさら1巻毎に書いても、という気がするので、2006年中に出た3冊という区切りで、メモ的に書いていた感想をまとめておくことにする。
「水滸伝」は「三国志」と違って、原典や翻案物を全く読んでいないので、梁山泊に豪傑が集まって、時の政府と戦う話、という程度しか、予備知識がない。その分、馴染みにくいか、より新鮮な気分で読めるか、どっちかだろうと思ったが、ここまでの所、どっちかというと後者。
これだけ多数の登場人物を「正義」の側に集めて来ると、さすがに一人一人のエピソードが似通って来るし、それぞれの描写に割けるページ数も限られているから、みんなが同じ方向を向いているということもあって、人物像も似たり寄ったりに見えて、なかなか特定の人物への親しみがわかない。
1巻のあとがきは北上次郎が書いていて、文章の性格上、当然、この作品を賞讃しているわけだけど、その賛辞は多分に、「水滸伝」の原典や翻案物に親しんだ経験に裏打ちされたもののように感じられた。それがこの作品を評価するひとつの切り口になるのは当然だけど、それは自分にはないな、と思う。
人物像が似たり寄ったりに見えるという点については、それが影響して、3巻目で早くも、マンネリ感を覚えてもいる。この先、16巻もあるのに。
ただ、敵役である青蓮寺の存在感が増して行けば、新たな面白さが生まれて来るんじゃないか、という気はする。立場を異にする彼らは、梁山泊の面々と似たようなキャラに見えてくることはないはずだし、話の展開も、今までとはかなり違ってくるはず。時代を逆方向から見る視点が導入されれば、やや一本調子な流れも、だいぶ変ってくると思う。今の所は、まだ青蓮寺という名前だけが先行している感じがあるが、3巻あたりで、ぼちぼち立ち上がって来た気配があるから、ようやくこれから、本格的に面白みが出て来るのかもしれない。
(1巻2006.11.22、2巻2006.12.9、3巻2006.12.26読了)
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