感想「ポロポロ」
「ポロポロ」 田中小実昌 河出文庫
田中小実昌の文章は随分読んでいるけど、小説は初めて。
帯には宗教/戦争小説集と書いてあるが、そういう感じじゃないなあ。とりとめなく文章を書き連ねているという感じで、それは収録されている作品の一つでくどいくらいに言っている、物語になることを拒否しているからなんだろうが、ということは必然的にこれは「小説」じゃないよな、と思う。実際、今まで読んだことがある、この人のエッセイ(雑文?)と、この本に収められた文章は、あんまり違いがないように見える。創作と現実の違いはあるのかも知れないが、どこがその境目なのかも分からないような書き方を作者はしているし。違いは、題材が、ミステリとかバスに乗ることとかじゃなく、中国で兵隊になってた頃のことだというくらいなんじゃないのかな。
もちろん、その違いが大きい、という考え方もあるだろうし、書かれている内容の深刻さを考えれば確かにそうも見えるんだけど、著者はそのように受け取られることを拒否しているように感じる。書いていることはこないだの戦争の末期の、日本軍の悲惨なブザマさに他ならないけれど、それを告発しようというわけでなく、ましてや美化しようというわけでもなく、いつもの雑文同様に、記憶にあることを淡々と綴っているだけ、という感じ。むしろ淡々と綴っていくことにこそ拘っているとも思え、そこに意味を見出していくべきなのかも知れない。
面白かったかといえば、そんなには。かなり(生理的に)汚くて疲れる話だが、これが現実だったとすれば、それで充分、日本がやったこないだの戦争が持っていた、どうしようもなく下らなくて、馬鹿馬鹿しい一面を、伝えたものではあるかなと思う。それが作者の意図する所かどうかは分からないけれど。
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