感想「物しか書けなかった物書き」
「物しか書けなかった物書き」 ロバート・トゥーイ 河出書房新社
トゥーイの単行本が出たというんで、速攻で買ったが、ハードカバーなので、なかなか手が伸びず、読むのが先送りになっていた。かなり癖が強い作家だし、「EQ」で頻繁に訳されていた頃、だんだん食傷してきたような覚えもあって、今、どれだけ楽しんで読めるかなと思ってもいたが、充分面白く読めたので良かった。収録短篇14篇の大半は既読のような気がしたが、それでも面白い。オチよりも、話の運びそのものの奇妙さの方が、強い印象を残すからだろう。題材やアイディアに関して、そんなに幅の広さがある作家ではないと思っていたのだけど、少なくともこのサイズの短篇集を編纂するには充分なだけの多彩さを持っていたという感じ。
ミステリとファンタジーやホラーを融合させたような作品が多いが、そういう色合いのない、ストレートな小説にも味わいがあるというのがよく分かった(法月綸太郎の解説とかぶることを承知で書くが、たとえばラニアンやエリンのようなタイプの味わい)。雑誌で単発で読んでいた時には、異色作家の珍しいストレートな短篇という感覚で読んでいた気がするが、こうしてまとまった形で読んでみると、これもこの作家の重要な一面だったんだなと思う。
そう考えると、表題作にも(やっぱりこれがベストかも知れない)、奇想天外なアイディア小説の背景に、ストレートな小説で描かれている哀感や諦念が滲んでいるようだ。
(2007.7.5読了)
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