感想「復讐はお好き?」
「復讐はお好き?」 カール・ハイアセン 文春文庫
久々に、これはいい、という感じ。ハイアセンの小説は、基本的には全部OKと思ってはいるが、やっぱり出来不出来はあるし、近年の作品は、最初の頃に較べると、力強さに欠けるかな、と思っていて、少し物足りない気はしていた。(ただし、「ロックンロール・ウィドー」は、少し違った方向性を狙った小説として、それなりに良い出来と思ったし、ジュヴナイル2冊は、そういう枠組みの中では傑作だったと思う)。
本書は、元々のハイアセンのテイストを受け継いだ上で、面白い小説だったと思う。登場人物のキャラが、どれも立ちまくっているし(一人として、いわゆる「まともな人」が居ない)、それが基本的なハイアセンの面白さだからね。
まあ、ハイアセンを読み慣れている目には、予定調和が、かなり早い段階で見えてしまったりはするけれど、必ずしもそれは欠点でもない。気楽に読めるということでもあるので。安心して、暴走キャラの暴走ぶりを楽しんでいられる。
ただ、トゥールをこういうキャラとして描くというのは、多分、初期のハイアセンにはなかったことだな。そういう意味で、ハイアセンの小説は穏やかになったという気はする。
主人公の一人は「顔を返せ」のミック。スキンクも登場するし、「トード島の騒動」のトゥイリーと思われる人物が顔を覗かせる場面もある。著者自身の位置付けとしても、原点回帰的な作品なのかも知れない。
ところで、スキンクが自分のことを、大尉と呼んでくれと言ったいう場面があるが、ハイアセンの小説では、ずっと「キャプテン」と訳されていたはず。意図的に変えたのか、訳者(か、編集者)に愛がないのか、どっちだろう。編集者は、巻末にかなり丁寧な解説を付していて、スキンクのことも触れているので、知らなかったはずはないと思うんだが。(その割に、「顔を返せ」にミックが出ていることには触れていないが、これは読んでないのかも)
まあ、自分でも、確かここにスキンクが出ていたはず、みたいなことで、旧作を確認したりしていて、さっぱり内容を覚えてないことが分かったから、あんまり言えんけど。もう一度、ハイアセンを最初から読み直すのも悪くないかもなあ。全然覚えてなくて、純粋にフレッシュに楽しめちゃったりするかも知れない。
(2007.7.2読了)
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