感想「呪われた者たち」
「呪われた者たち」 ジョン・D・マクドナルド ハヤカワ・ポケミス
「路上の事件」「ドラゴンの棲む川」と、この小説への言及がある小説を続けて読んだので、なんかの縁だと思って読んでみた。この本がまた、折よく、本棚の本の入替をしてると出て来たし(笑)。
ただ、ジョン・D・マクドナルドって、いまいちピンと来ない。トラヴィス・マッギーも、翻訳が出てるのは全部読んでるはずだけど、本当に面白いと思ったのは1-2冊あるかないかだと思うし、それ以外の長短篇もあんまり。この「呪われた者たち」も、実はもしかしたら一度読んでるかも知れないが、さっぱり覚えてない。読んでるんだとしたら、その程度しか印象に残らなかったということになる。
今回読んでみて、それはありうると思った。渡し船が動けなくなって、メキシコの川の岸辺に足止めされた数組の人々の人間模様を描く、という小説。それぞれのグループにそれぞれ特徴的なエピソードを与え、一人一人の人物像も類型的ではあっても、それなりにきっちり描き分けているあたりも上手いと思うが、いまいち心に残らない。これは忘れるな、と思った。
登場人物が多過ぎて、どの人物からも著者の肉声が感じられない、ということはあると思う。背後に透けて見える著者の物の考え方が、いかにもアメリカン・ウェイ・オブ・ライフという感じなのも、共感出来ない。もっとも、そういう所が逆に、アメリカ人に人気がある理由なんだろうという気はする。
「路上の事件」の複数のエピソードを絡ませて行く手法は、本書に幾分通じるものがあるし、エピソードのイメージが重なり合う部分もある。ゴアズは本書をかなり意識しているんだろうな。
そもそも事件は起きるけれども、それがサスペンスになってるか、というと、かなり微妙。サスペンスよりも人間模様を描くことに著者の意図はあるし、途中に起きたいくつかのミステリ的な事件を、結末できっちり完結させていないあたりにも、その辺の意識が見て取れる気がする。かといって、普通小説としては凡庸と思える。
結局、やっぱり、ジョン・Dは分からない。
(2007.11.14読了)
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