感想「カードの館」
「カードの館」 スタンリイ・エリン ハヤカワポケミス
主人公が謎めいた美女に見込まれて、その息子のお守に雇われたことから、事件に巻き込まれていくという話。構造はかなり単純で、ひねった所もあまりない、素直なサスペンス。厚さの割に中身が薄くて、あまりにも当り前な小説というのは確かにあるし、エリンの技巧派作家のイメージに似合ってないのも確か。訳者の深町さんのあとがきを読むと、一般的には失敗作と考えられているようだし、ハヤカワの扱いを見ても(確か再版は掛かってないし、文庫化もされてない)、そんな感じ。やむを得ないかなとは思う。ずっと昔、最初に読んだエリンの長篇は「バレンタインの遺産」で、これは本書の次作に当るようだが、この時の読後感もイマイチぴんと来ないものだった。本書とよく似ている。
ただ、深町さんは本書が映画化された件についても触れていて、その中で、自分が監督だったら、おおらかな観光映画として撮っただろう、という趣旨のことを書いている。それは同感。本書の舞台は始まりはパリで、終点はローマ。観光名所があちこちに出て来るし、美貌のヒロイン、印象的な脇役、見るからに特徴的な悪役にも事欠かない。映画はともかく、気楽な観光小説として読む分には、それほど悪い出来ではないように思える。ただし、そういう小説をエリンに期待するかどうかは別問題。
パリに滞在し、小説家を志しつつ、ボクシングもやってた主人公というのは、うろ覚えのエリン自身の経歴と重なっているように思え、そういう意味合いもある小説なのかなと思ったが、これは覚え違いかも知れない。
これでエリンの邦訳された小説は、ハヤカワから出てる単行本に全短編が収録されているのであれば、全部読んだことになるはず。以前、未訳の私立探偵小説がとても読みたかったんだが、今となってはこの辺は、ずっと未訳のままになりそう。原書で読むほどの気合はないし、多分、読解力も追い付かなさそう。
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