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感想「黒い山」

「黒い山」 レックス・スタウト ハヤカワポケミス

ネロ・ウルフもの。1954年の長篇。ペーパーバックでは読んでいるので、一応、再読。

ウルフの旧友のマルコ・ヴクチッチが殺され、それはモンテネグロの民族運動に関係しているらしく、そのうち養女のカルラもモンテネグロで殺されたという知らせが入り、ウルフはアーチーを伴ってモンテネグロへ向かうという話。
謎解き的な要素はほぼなく、基本的にウルフとアーチーのモンテネグロ冒険記という内容だが、冒険物としても、あまりにも都合が良すぎてリアリティに乏しいストーリー。探偵小説は本来おとぎ話だとしても、これはそれで許容されるレベルにも届いていないのでは。ウルフもののファンには、キャラクターものとしてそれなりに楽しめるにしても、独立した小説としては、正直、かなり疑問符のつく内容だと思う。異色作というよりは、怪作という表現の方が良さそうだ。

なんでこんなものを書いちゃったんだろう?、という疑問に対する、回答になるのかも知れないのが、解説で杉江松恋が書いているマッカーシズムとの関連なんだろう。この時期に、どうしてもこういうことを書いておきたいという気持ちがスタウトにあって、内容は二の次だったとすれば。唐突な合衆国憲法の引用などは、そう考えると、確かに納得は行くように思える。
(ペーパーバックを読んだ時の自分の感想を見直してみると、その辺にポイントがありそうだという所までは考えていたけど、だからこの本を書いた、という所までは及んでいないみたいだ。まあ、それが正しいかどうかは分からないけれど)

そういう小説で、あっさりとマルコとカルラをシリーズから消してしまうという決断も凄いけどね。もっとも、カルラはシリーズキャラクターとして、初登場後、全く使われていなかったし、マルコもそれほど強いキャラとしては機能していなかったとは思う。

それにしても、これは、ある程度ウルフ物を読んでいる読者でないと、ほとんど面白味のない長篇じゃないかな。少なくとも「料理長が多すぎる」と「我が屍を乗り越えよ」は読んでいないと(それ以前に、ウルフ物の世界観そのものが理解出来てないとだめだから、この2冊だけ読んでいてもしょうがないんだが)。実際の所、今の日本で、ウルフ物はどの程度読まれてるんだろうか。

「ヴクチッチ」という名前の表記については、「ヴクシック」というのが一般的だと思うので、ちょっと違和感。近年よく耳にする、ユーゴスラヴィア関連の人名から推して、「チッチ」の方が、モンテネグロの名前としては、おそらく正しいのだろうが。

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