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感想「歌の翼に」

「歌の翼に」 トマス・M・ディッシュ サンリオSF文庫
随分前にまともな値段で古書で入手していたもので、読み掛けたことは何度かあったが、なんとなくもったいなくて手が止まっていた。国書版が出たことで、呪縛が解けた感じ(^^;)。

幽体離脱して「翔ぶ」ことが流行している近未来のアメリカ。文明が衰退に向かい荒廃しつつある中で、少年時代に「翔ぶ」ことに憧れを持った主人公の人生を描いたもの。
普通の小説のように見えて、さりげなく異世界へずれていく導入部の手際がすごく巧くて、すんなり入れたが、皮肉とユーモアが散りばめられてはいるものの、陰鬱な未来図は読んでいて気が滅入り(ディッシュなんだから、そういう内容なのは当り前とは思えるが)、この厚さに耐えられるかなという気がした。でも、序盤を過ぎるとだいぶ楽になった。中盤以降は、ディッシュの小説にしては、むしろ明るい感じなのかも。
印象としてはSF的なアイディアを多用した普通小説。解説では「翔ぶ」ことがテーマという感じの趣旨で書かれていて、確かにそれを軸にして小説が組立てられているが、(解説で言っているほど)切実な憧れとして描かれているようには読めなかった。常に焦がれて悶々としているというわけではなく、日頃は心の奥底にあって、時折浮かんでくるという感じ。それよりは、どちらかというと、近未来の過酷な状況の中で生きる人々を、リアルに描いていくことの方に力点があるように感じた。かなり以前に読んだきりなので、内容はたいがい忘れているが、「334」の時もそんな印象を持った記憶がある。特にSFにこだわりを持って本を読んでいるわけじゃないから、小説としてしっかりしていれば、それは別に構わない。そうした部分はよく描けているし、SF的なアイディアの取入れ方も自然で無理がない。大傑作というタイプの作品じゃないと思うが、佳作なのは確かだと思う。

出出し、「翔ぶ」ことが音楽と結び付けられていたこともあって、ドラッグの比喩なんだろうかと思ったが、必ずしもそういうわけではなかった。「自由」を象徴するイメージというような感じだけれども、「翔ぶ」ことを実利的な用途で使っている人物が登場していたり、かなり俗っぽい行為として描かれてもいて、そういう所からも、「燃えるような渇望」の対象というのとは、少しずれているような気がするんだな。ディッシュらしいひねくれの表れなんだろうか。

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