感想「紐育万国博覧会」
「紐育万国博覧会」 E・L・ドクトロウ 文藝春秋
ドクトロウは「ダニエル書」と「ラグタイム」を読んでいる。「ダニエル書」のテーマ自体は少しずれていた気はするが、基本的にはアメリカのノスタルジーを描く作家なのかな、というイメージがある。
本書は1930年代後半のニューヨークで成長する、ユダヤ人の少年の生活を描いた小説。時折、母・伯母・兄の回想が挟み込まれることで、さらに古い時代も描かれる。時代や風景が、生き生きと描かれている。
これも完全にアメリカのノスタルジー小説だった。少年を主人公にすることで、そういう雰囲気はいよいよ強まっている。というか、この主人公はそもそも、作者自身がモデルらしいので、懐旧的になるのは当り前か。
基本的にはアメリカ人のノスタルジックな小説にはつきあいきれんと思っているが、この作家に関しては、必ずしもそういう印象を受けない(なので、読んでみようという気を起こした)。単純な「昔は良かった」的な小説になっていない、やや突き放した視点に立っているからだろうか。街や風俗の描写が的確で、風景が目に見えてくるように思える所もすぐれていると思う。
それと、この小説に関しては、主人公の生活ぶりに、自分自身の同じ年頃になんとなく重なって見えるものがあるのも、プラスに作用しているように思える。30年以上違うんだが、アメリカと日本のライフスタイルの変遷が、それくらい違うということなんだろう。それはよく聞く話ではある。
クライマックスは、1939年のニューヨーク万博に主人公の家族が揃って出かけていく場面で、それがタイトルになっている(原題は「World's Fair」1985年の作品)。
(2010.3.4)
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