感想「記憶のための殺人」
「記憶のための殺人」 ディディエ・デナングス 草思社
原著は1984年刊行。邦訳は1995年刊行で、「ロマンノワール」という叢書らしい。しばらく前に読んだジャン・ヴォートランの2冊と同じ時期に出ていたらしい。
1961年に、パリでアルジェリア移民のデモが警察に襲われて死傷者多数を出した際、巻き添えのように見える形で殺された男の息子が、20年後に謎めいた殺され方をして、主人公の刑事が捜査に乗り出す話。
探って行くと、ヴィシー政権時代の対独協力に事件の背景があることが分かり、61年の事件も含め、あまりおおっぴらになっていないフランスの過去の汚点をさらけ出すという所に意図がある。タイトルも、その辺に引っ掛けていると思われる。
テーマの重さの割に、主人公の刑事は結構軽いし、全体的にユーモラスなタッチで読みやすい。アンバランスな感じはするけど、重いテーマでも軽みを失わないというあたりが、フランスの小説ぽい面白さではあるのかな。
80年代というのは、そういう過去の汚点を振り返って、未来に伝えようという動きが、日本も含めて、結構盛んだったような気がするが、90年代半ばくらいから揺れ戻しが来ていると思う。フランスも、ブルカ禁止の法案が出来たりしてるのを見ると、偏狭な社会へ向かっているんだろうか。
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