« 「ザ・スポーツ・ノンフィクション」 | トップページ | 感想「現代数学の土壌」 »

感想「新ナポレオン奇譚」

「新ナポレオン奇譚」 G・K・チェスタトン ちくま文庫
原題の直訳は「ノッティング・ヒルのナポレオン」。先日読んだ「Xに対する逮捕状」は、登場人物の一人のアメリカ人がこの本を読んで、触発されてノッティング・ヒルへ出かけていく場面から始まっていた。それが念頭にある所で、この本を見掛けたので、読んでみることにした。

20世紀初頭に書かれた1980年代を舞台にした小説で、簡単にまとめちゃうと、ノッティング・ヒルの裏通りを潰す開発計画に、ノッティング・ヒルを愛する市長が、軍隊を組織して立ち向う話。冗談好きな国王の気まぐれで、ロンドンの各地域が自治都市となったことがきっかけで、都市間戦争が起こるという趣向。絵空事ではあるけれど、イングランド・フットボール通らしい人々が伝えるロンドンのフットボールクラブのサポーターのいがみ合い(どこまで実態に近いのかは知らないが)に、どことなく似ているような気はしないでもない。
チェスタトンらしい詭弁的な文章とか、ただの冗談だったものが、それを真に受けた人間によって、血なまぐさい現実に変わっていく恐怖感とか、安定しているが平凡な日常よりも、危険で刺激のある世界に人間は生き甲斐を見出すのか?、というような問いかけとか、読みどころはいろいろある。解説の佐藤亜紀が、安定した社会でも、そこに殺し合いを出現させるのは簡単、対立軸を一つ作ってしまえばいい、という趣旨のことを書いているけれども、それも示唆されていることのひとつ。そして、こういうことは、今、世界で現実にいくらでも起きていることなので、全くの絵空事ではないことになる。確かに恐ろしい小説かも知れない。
「木曜日だった男」よりもかなり分かりやすく思えるのは、やはりこれがチェスタトンの最初の長篇小説だったからか。

ちなみに、「Xに対する逮捕状」の夢想家のアメリカ人が、どのレベルでこの本に触発されたのかは分からないが、いかにもノッティング・ヒル市長のヒロイズムに感化されそうなキャラではあったな。

|

« 「ザ・スポーツ・ノンフィクション」 | トップページ | 感想「現代数学の土壌」 »

「小説」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/3787/50493570

この記事へのトラックバック一覧です: 感想「新ナポレオン奇譚」:

« 「ザ・スポーツ・ノンフィクション」 | トップページ | 感想「現代数学の土壌」 »