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感想「内なる殺人者」

「内なる殺人者」 ジム・トンプスン 河出文庫
再読で、初読はこの本が出た直後の1991年。この時点では、トンプスンに対して、あんまり好感は持っていなくて、この本も面白いとは思えなかった(初読時の感想はこれ)。でも、その後、なんだかんだでトンプスンを読み続けるうちに、この作家に対する気持ちは相当変わった。
で、5月頃、本書が映画化されたものが上映されると聞いて、見に行こうと思い、その前に再読しとこうと思って、読み直してみることにした。結局、映画は行かなかったんだけど。

本書の初読時の感想を見ると、エンタテインメントらしくないという所に、かなり拒絶反応を示しているんだけど、今思うと、当時の自分の小説の読み方というのは、作中人物に感情移入して、入り込んで読む、という形だった。トンプスンのような、不条理な状況や、異常さを抱えた人物ばかりが登場する小説で、その読み方はキツい。トンプスンの小説は、気軽な感情移入を拒んでいると思うし、当時、そこに馴染めないものを感じたのも無理はない。
今は、「距離を置いて」読むことが出来るようになっていると思う。凶悪で異常な主人公が不条理な状況下で右往左往する光景を、「読み物として」読む。そう割り切って読んでみると、これはやっぱり、かなりよく出来た小説。主人公が状況に追いつめられて行くサスペンスや皮肉なおかしさ、終盤に向けて伏線がきっちり張られているあたり、見事なもので、巧い作家だなと思うし、こういうエンタテインメントもありだろうな、とも思う。
それと、そういう気持ちに余裕がある状態で読んでいるからなのか、初読時には受け入れられなかった主人公の人物像に対しても、今回は、「正常な」世の中とうまくいかないことへの怒りとか哀しみとか、そういう感情を共有出来るような気がした。感情移入というのとは違うと思うが、強い拒絶感はなかった。自分自身に対する認識が、20年前とは随分変わっている影響もあるのかも知れない。人間てそんなもんだよ、みたいな、当時よりも相当崩れた感覚が、今は自分の中にあるような気がする。

ジョイスがいいキャラクターだと思うんだが、初読時はどう思っていたんだろうな。当時の感想にも、そこまで細かいことは書いていないので、分からない。
(2011.5.30)

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