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感想「雷電本紀」

「雷電本紀」 飯嶋和一 河出文庫
20年前(94年が最初の刊行)に出た時に紹介を見て、読んでみようかと思ったけど、当時の自分の守備範囲からは外れていたこともあって、結局読まなかった。その後も機会はあったけど何となくやり過ごして今日に至っていたが、先日、たまたま手に入れた。

江戸時代の有名な相撲取り、雷電の生涯を描いた小説。史実がベースになっているにしても、そんなに細かい情報が残っているとは思えないし、かなりの部分が創作と思われる。ただし、時代背景については、よく調べて書いている。天明の大飢饉の前後の時期で、民衆がぎりぎりまで追い詰められている状況とか、そういう中で、彼らが特異な力を持ったヒーローにすがることで希望を見出していく構図とか、細部がしっかり書かれているので、とても現実感がある。
民衆が、飽きてしまえばヒーローを放り出すし、私欲のために裏切ることだってある、そういう綺麗事で済まない部分もきっちり押さえているし。

雷電を始めとする、民衆にすがられる側のヒーローたちは、常人離れした能力を持って生まれてしまったり、他の人間が見ないものを見てしまったばっかりに、世の中の「普通の」あり方から離れた、特別な立場に身を置くしかなかった人たち。そういう構図を考えると、著者の意図とは微妙に違うかもしれないが(巻末に著者と久間十義の対談が収録されていて、作品について、かなり突っ込んだことが語られている)、これはヒーローものだなと思った。たとえば、仮面ライダーのような(^^;)。ちなみに小説の語り手(狂言廻しってやつかな)に近い役回りに鍵屋助五郎という人物が配されていて、ヒーローたちをサポートしていくんだか、彼はいわば立花藤兵衛だな。

ヒーローになるには資質が要るけど、立花藤兵衛なら気持ち次第で何とかなるかもな、と漠然と思った。たとえばの話、みんなが山本太郎みたいになれるわけじゃないが、支えることは出来るよな。

小説の中盤に頻出する相撲の取組の場面は、丁寧に描かれていて迫力があって、出来のいいスポーツ小説風。切り口がいろいろあって、いろんな読み方が出来る小説だと思う。

20年前でなく、今読んだおかげで、考えられることが、色々増えていた気がする。多分、読んだ時期が今だったのは、良かったんじゃないかと思う。
(2013.8.9)

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