« 感想「4522敗の記憶」 | トップページ | 感想「三陸海岸大津波」 »

感想「謎の独立国家ソマリランド」

「謎の独立国家ソマリランド」 高野秀行 本の雑誌社
ソマリアやソマリランドのことを、しばらく前に何かで読んで、冒頭で著者が書いているのと同じような感想を持っていたから、最初にこの本を見た時、読んでみようと思ったんだけど、ちょっと高かったんで一旦パスした。
割引で買える時に改めて見に行ったら、「講談社ノンフィクション賞受賞」なんて帯がかかっていた。受賞しちゃったのか…、まあいいや、と思って(^^;)買った。

内戦状態だし、沿岸に海賊は出るし、滅茶苦茶な国というイメージのソマリアだが、国内にはソマリランドという独立国家?があって、そこはまるっきり平和らしいという不思議な話の実態を見るために、現地に乗り込んだジャーナリストのレポート。
自分で見て聞いて体験した上で書くという姿勢が一貫している。そうやって取材していくと、外から見て奇妙に思える状況が、十分必然性や合理性があることが分かってくるという内容。
結局、現場のことを知らずに、不確かな情報を元に、自分の価値観だけで判断してはダメということなんだろう。

ソマリランドは国際的にはソマリアの一部として扱われているが、実態はソマリアの他の地域とは一線を画した「独立国家」。そしてソマリランドの中は間違いなく平和だけど、それは降ってわいたものじゃなく、いろんな幸運も手伝ったとはいえ、住民たちが自分たちの伝統的な手法を駆使した努力によるもの。平和をもたらそうとして、地域の実態もよく知らずに見当違いの介入をしたアメリカや国連軍の影響で、滅茶苦茶な状態になったのがソマリア南部という構図らしい。
ただまあ、だからといって、その国にはその国のやり方が、と直結してしまうものでもない。帯には「西欧民主主義敗れたり」と書かれているが、実際には、伝統的な手法を駆使したとはいえ、西欧の民主主義の思想を十分に咀嚼してアレンジした上で使っている。西欧流は日本には馴染まないし、基本的人権なんてどうでもいいみたいなことを大して考えもなく言ってしまう、日本にいるムチャクチャな連中とは別の次元の話。ある意味、民主主義の本質的な意義を考えず、ただの手続きくらいにしか思ってないらしい政治屋だらけの日本よりも、「西欧民主主義」がちゃんと使われてるようにも見える。まあ、この本で読む限り、ということだけどね。

他には、取材の時点では内戦状態だったソマリア南部でも、実は都市住民の生活がきっちり成り立っていたというくだりが、人間の生活って、そう簡単に破壊されるほどヤワなもんじゃないんだなと思わせてくれた。そうはいっても、アル・シャバーブのような、本当に強烈な暴力には、やっぱりなすすべはないんだが。

ソマリ人の気質は、先日読んだ「砂漠の豹イブン・サウド」に描かれていたアラビア半島の遊牧民に、かなり似通っていた印象。まあ紅海を挟んだ対岸の人たちなんだから、似てて当たり前かもしれない。こういう環境の中から生まれた民族と、日本みたいなかけ離れた環境の人間が本当に理解し合えるんだろうかと思うけれど、この著者はうまくやっているように見える。体を張っているものな。やっぱり何事も、考えているだけじゃなく、飛び込んで体験してみるのが大事だということか。
(2013.10.31)

|

« 感想「4522敗の記憶」 | トップページ | 感想「三陸海岸大津波」 »

「小説以外の本」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/3787/58528159

この記事へのトラックバック一覧です: 感想「謎の独立国家ソマリランド」:

« 感想「4522敗の記憶」 | トップページ | 感想「三陸海岸大津波」 »