感想「悪意の糸」
「悪意の糸」 マーガレット・ミラー 創元推理文庫
久々のミラーの新訳。ミラーはとても好きな作家で、未訳でも2冊読んでるくらいだけど、今回読んだのは久々だった。
主人公の女医が、気になった外来患者の様子を見に、家へ訪ねて行ったことをきっかけに、妻のある男性と付き合っている自分自身の事情も絡んだ事件に巻き込まれていく話。
最初から最後まで、きっちりプロットが作り込まれたサスペンスだが、この人の代表作のいくつかに較べると、それほど特別な内容ではないと思う。1950年に出た小説なので、その当時の一般的な小説としてはどう、という話になると、ちょっと分からない所はあるが。
ただし、人物の描き方はいかにもこの人らしい。どの人物も不安を抱えておぼつかない感じだし、一見、うまく行っているように見えても裏がある。でも、うまく行くのも行かないのも紙一重で、運と成り行きに過ぎないんだから、うまく行ってない人間に、殊更に冷たい目を向けることはないし、ストーリーは容赦なく展開しても、登場人物の書き方にはやさしさを感じさせる。
ただし、やさしさと言っても感情移入を伴うウェットなものじゃなく、そうなっちゃうんだよな、仕方ないんだよな、というような、諦めを感じさせる乾いたもので、そういう作風が、多分、俺がこの作家を好きな、大きな理由の一つ。
こういう小説を久々に読んだな、と思った。
(2014.9.27)
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