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感想「静かなる炎」

「静かなる炎」 フィリップ・カー PHP文芸文庫
グンターもの再開後2冊目。前作「変わらざるもの」の結末で、アルゼンチンに逃げないといけない羽目に陥ったグンターが、1950年のブエノスアイレスで、1932年にベルリンとミュンヘンで起きた事件とよく似た猟奇殺人事件を捜査する話。
半分は、ナチスが国を支配していく過程にある1932年のドイツが舞台で、それはそれでとても陰鬱な話だけれど、1950年のブエノスアイレスも、それに負けず劣らず。アルゼンチンの悪名の高さはよく聞くけれども、ここまで掘り下げて書かれたのを読んだのは初めてだ。もちろん本書はフィクションだから、全てが史実じゃないにしても、史実と考えて良さそうな部分だけでも、かなり暗い気持ちになる。
このシリーズは一貫してナチスの残虐さがテーマだけれど、前作「変わらざるもの」は、それと絡み合う形で、ミステリとしても、ひとつ大きな仕掛けがあって、感心させられた。でも、本書にはそういう要素はあまり感じられない。プロットはしっかりしているが、あくまでも話を進めるためのもので、ナチスがやったこと、戦争が終わった後も自分たちがやったことを恥じていない元ナチスのこと、ナチスがやったことを悪と見なさない、ナチスの同類のような連中のことを、書き綴る手段でしかないような感じ。
それから、そういうナチズムを支えたのは「普通の人間」だった、ということを、特に強く言おうとしているようにも感じる。その中には、悪意があった人間だけでなく、関心を持たなかった者、(主人公のグンターのように)保身のために折り合いを付けて生き延びた者や、自分たちの主張を通すために、ナチスに反対する者を攻撃することで、間接的にナチスが台頭する助けとなったような者も含めている。ナチスは、それだけ巨大で、否定しなくてはいけない悪、という認識なんだと思う。

ただ、これを書いてるのは、当事者のドイツ人ではなく、イギリス人なんだよな、という所に、少し引っかかるのは、相変わらずではある。

そうはいっても、ヒトラーの亜流みたいな人間が首相をやってる今の日本にとっては、この本から汲み取った方が良さそうなメッセージがあるよな、と思うけれども。
首相がそんな人間でも、日本の状況は、まだ本書で描かれている世界ほど深刻ではないが、それこそ無関心や、どういう結果に繋がるかを考えない無責任な言動が、事態をどんどん深刻化させていくのは間違いない。この本からは、そういうことを汲み取れると思う。
(2015.2.20)

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