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感想「明日と明日」

「明日と明日」 トマス・スウェターリッチ ハヤカワ文庫
去年邦訳刊行された小説。原著は2014年刊行。

テロリストの自爆テロで消滅したピッツバーグが、膨大な画像データを元に、ネット上に仮想空間として再現されているアーカイヴを、話の中心に置いたSF。
ただし、ストーリーはまるっきりクライムノヴェルという感じ。消滅する前のピッツバーグに存在した女性の変死体を、保険の調査員がアーカイヴで調べていくうちに、データに偽造があることに気付き、それをきっかけに、連続猟奇殺人の闇に踏み込んで行くという話。いろんな手続きはSFの世界のものだけど、ミステリとして読んでも全く違和感がない。読後感もまずはミステリのそれだった。
というか、普通のミステリであれば、事件を巡る回想が、書き置きとか証言とかで、いずれにしても現実的に考えると不自然なくらい克明に再現されるけれど、本書の場合は録画映像で現れてくるから、ある意味、よりリアルと言えなくもない。まあ、小説で読んでる分には、大きな違いはないが(^^;)。

昔は「SFミステリ」というジャンルが、割と特殊な存在としてあった、という気がするけど、近頃は意識しなくても普通に両者が混合している作品が多いように思えるし、本書もそのいい例なんじゃないんだろうか。
ある意味、現実がSF的になってるということでもあると思う。本書に描かれた世界は、現代の世界と地続きでもおかしくない身近さがある。実際にこういう世界が生まれるには、色々高いハードルがありそうだけど、現実感はとても強い。現実的過ぎて、吐き気がするようだったりする。
本書の帯で引き合いに出されているギブスンがサイバースペース三部作を書いていた頃、現実のネットがこんなに薄汚いものになるとは思わなかったものな。あれはまだ一種のおとぎ話だった。本書のネットの世界はそういう現実を反映して、本当に醜悪。でも、多分、真の未来はこっちの方にあるんじゃないかなと思う。それじゃあんまり希望が無さすぎる、とは思うけれど。
(2016.6.2)

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