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感想「サッカーと愛国」

「サッカーと愛国」 清義明 イースト・プレス
サッカーとレイシズムの関係についての考察。著者はマリノスのサポ。著者が以前からツイッターやブログに書いていた文章をまとめた内容。ネットに載せられた文章はかなり読んでいるので、目新しい内容は3割くらいかな。著者紹介によると紙のメディアでも展開してるらしいが、そっちは守備範囲外なので知らないから、読んだ記憶のない内容は、そっちの方のものなのかもしれない。いずれにしても、ちょっと寄せ集め感はあるにしても、まとまった形で読めたのは有難かった。

おおまかな構成としては、日本の状況を概観した後で、重要な要素になっている朝鮮や中国との関わりについて述べ、最後に世界(主にヨーロッパ)の状況を説明していくという感じ。

日本とヨーロッパでは事態のフェイズが違うんじゃないかということを、漠然と思った。
ヨーロッパではレイシズムはあることが前提で、自覚してそういう行為が行われているし、対抗する側も明確にあるものに対して反対する形になっている。日本にもレイシズム的な意識は昔から存在していたけれど、たいていの人はそれに無自覚で、意識せずにレイシズム的な行動をしていたり、そういう行動に気付かず、スルーしている状態じゃないかと思う。ただ、一部のレイシズムの活動家が、それを自覚的で、より惨たらしいもの(要はヨーロッパに近いもの)にしつつある、というのが、今の状況なんじゃないのかな。
ただし、無自覚だったら害が少ないというものでもないし、見えていなかったり、実感がない分だけ、対抗もしにくい状態にあるのも間違いない。

書かれている内容は、著者が現場で体感した実際の経験がベースになっているので、信頼感がある。日頃から自分自身が体験したり、見聞きしていることに照らしても、違和感は覚えない。
実際、1990年代後半以降、サッカーが日本の中で不健全なナショナリズムを加速させたという実感はあるし、自分が日本代表の試合にどんどん関心がなくしたのも、多分にそれが理由だから、サッカーとナショナリズム・レイシズムの親和性は感覚的によくわかる。
むしろ、代表戦なんて、それがあるから盛り上がるんじゃない?、とも思っているので、W杯自体にも否定的にならざるを得なくなっている(オリンピックも同様)。
そういえば、Jリーグが始まった頃、日本代表の強化のために創設したリーグ、みたいな説明を聞いて(その辺の話も、本書には出て来る)、違和感を覚えたことを思い出した。

ただ、本音の所ではわからないが、今のFIFAはアンチレイシズムを強く打ち出しているし、サッカーの強い影響力を使ってレイシズムと戦うという姿勢を見せているのは立派だと思う。そうせざるを得ないくらい、ヨーロッパの状況が酷い、という話なのかもしれないけれど。それはこの本を読んでいて感じたこと。
日本では、この問題に関しては政府があてにならないから(政府の中心にいる人間たちが、レイシストを支持基盤の一部にしているくらいなので。ただし、それもある程度は、無自覚から来ているようには思える)、FIFAの直下にある日本のサッカー組織は、かなり重要な存在なのかもしれない。Jリーグがアンチレイシズムを掲げることで、そうした問題に実感のない層にも意識を浸透させていく、ということが可能かもしれないし。
そこまでの自覚がJFAやJリーグにあるのか?という点は、正直疑問符だけれど、スタジアムでレイシズムの事件が起きれば、対応しないわけにはいかないし、それを続けていくことで、意識が醸成されていく可能性はある。実際、どこまで効果が上がっているのかは分からないが、本書に紹介されているマリノスの取組みがあったり、浦和レッズもそれらしい働きかけを行ったりはしているわけで。ただ、十分な効果を上げるためには、臭いものに蓋的な対応ではなくて、こういう許されない行為があったので厳しい対処を行ったということを、誰にでも見えるところに公表していくことが必要だろうな。
(2016.7.30)

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