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感想「エラリー・クイーン 推理の芸術」

「エラリー・クイーン 推理の芸術」 フランシス・M・ネヴィンズ 国書刊行会
エラリー・クイーンの業績の全貌をまとめたもの。昨年末に刊行された分厚いハードカバー。
30年以上前に出た同じ著者による「エラリー・クイーンの世界」を大幅に増補改訂した内容で、これ以上の本はもう作れないだろうと思う。データ的な部分は、新たに資料が発掘されれば補強する余地があるだろうが、著者が2人のクイーンや関係者から直接得ている情報の量が非常に多い点については、話を聞いた相手が既に亡くなっていて、これ以上の情報を、もはや得られない場合が多い。それだけでもこの著者を凌ぐのは無理だし、ネヴィンズ自身も結構な高齢になりつつある。

個人的には、「エラリー・クイーンの世界」の時は書くのを控えられていたり、それ以降に資料が出て来て明らかになった事情が、いろいろと記述されているのが、最大の読みどころだった。ラジオドラマなどへのアントニー・バウチャーの大きな貢献や、ペーパーバックオリジナルや「盤面の敵」以降の正典のゴーストライトの話など、非常に興味深い。ある意味、エラリー・クイーンというのは、2人の従兄弟が合作していたペンネームというだけでなく、もっと多くの人間が関わって作り上げていた「ブランド」だったのかな、という気もしてきた。

そう考えると、今度は、ダネイとリーの2人は、どうして、そこまでしなくちゃいけなかったんだろう、という気がしてきた。小説だけでなく、それにかかわる、ありとあらゆるものに、積極的に手を出していった、という感が強い。お金が必要だった、という理由付けは、何箇所かに記述されているし、実際、そうだったんだろうとは思うんだが、一方で、本書に書かれている内容を読む限りでは、そんなに生活が追い詰められていた雰囲気もないように思える。それだけでは説明しきれないように感じられ、お金以外にも彼らを突き動かす要因があったんじゃないのかな、という気がする。

それから、晩年の小説は、むしろ正典以外の活動があったからこそあり得た作品群だったのかな、とも思えてきた。だとすると、クイーンを論じるためには、正典だけ見ていたのではダメで、全ての活動を視野に置かないといけないんじゃないんだろうか。クイーンを論じることの難しさの一端は、もしかしたら、実はその辺に原因があるのかもしれないと思った。

それにしても、後期のリーが、古典的な本格ミステリをここまで嫌っていたというのは、驚きに近いものがある。人の好みなんて、年が経てば変わるもの、というのは、自分自身を振り返ってもよくわかるんだが、これほどの状態で、よく合作を維持できていたなあ、と思う。その辺も、経済的な事情ということで、全て説明しきれるものなんだろうか。
(2017.2.8)

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