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感想「THIS IS JAPAN」

「THIS IS JAPAN」 ブレイディみかこ 太田出版
著者は若い頃にイギリスに渡り、そのまま在住している人で、イギリスの社会や、イギリスから見える日本の状況について、主にイギリスの労働者階級の視点で、ブログや著者で発信している。その人が日本の社会運動などの周辺を生で取材して書いた本。昨年8月の刊行。

取材といってもジャーナリストではないので、報道ではなく、あくまでも日本探訪記みたいな感じ。いろんな現場を訪れて、直に見た上で考えたことを書いている。賃金不払いのキャバクラへ交渉に行くユニオンとか、安倍政権反対のデモとか、近頃何かと話題の多い保育所とか、ホームレス救援の組織とか。
報道ではないけれど、描かれている内容は、確かにそうだろうなと思いあたるようなもの。「これが日本だ」と言われて、うん、そうだね、と思う。正直、暗くなるような気分の話ばっかりだが、今の日本が本当にそうなんだから、しょうがない。
なんでそうなのか、という点についての、著者のとりあえずの結論は、「一億総中流」意識の呪縛というやつなんだと思う。ちなみに、帯には「日本人は「中流の呪い」がかかっているのか?」という文言が書かれている。
確かにそう考えると、いろいろ腑に落ちるというか。自分が底辺じゃないと思いたいから、実質的には全然そういう状態なのに社会に助けを求めない、「中流」以上に見える人間にへつらって、社会に助けを求める「中流」未満に見える人間を見下す。その分、自分が脱落したと認めざるを得なくなると、ダメージが大きいから、すぐに精神を病んでしまう。そうはありたくないと、日頃から思ってるが、自分自身にも思い当たる部分は確実にあるし。

ただ、日本はそういう状態のはずなのに、いろんな社会運動が、欧米みたいに盛り上らない。結局、とりあえず食えてはいる人間が多いからなんだろうなと、前から思ってて、そういう話は本書の中にも出てくる。それはもちろん悪いことじゃないだろうけど、人間の尊厳とか人権意識とかを考えない低いレベルで食えてるのであれば(生かさぬように殺さぬように、みたいな)、積極的に肯定出来ることでもないと思う。そういう形で、本来主張されなきゃいけない権利がないがしろにされてる日本の現実というのが、本書で著者が見てきたことだと思う。

イギリスでは階級意識がはっきりしている分、下層階級の権利意識が明確で、社会に対する要求も強い、ということを著者は書いていて、やはりそれがあるべき姿じゃないかな。ただ、前提の強固な階級意識ってのは、全然あるべき姿ではないと思うけれど。(その辺は「デヴィッド・ボウイ・イズ」を見た時に考えたことのひとつに近い)
そういう意味では、別にイギリスも、全面的に憧れる対象ではないとは思う。どんな国にもいい所と悪い所があって、それはある程度は裏表のような気がする。ただ、今の日本はいい所の方だけを、どんどん捨て去ろうとしているように思えるが。

ちなみに、著者は自分とだいたい同世代で、考え方が理解しやすかったのは、そのせいもあるのかなと思った。
「この世界の片隅に」の受け取られ方を見ていて、世代による物の感じかたの違いというのを痛感している所なので、そういうことをつい考えてしまう。
著者がそんなことをちょっと書いてるくだりもあるが、まあ、うちらは幸運な世代だったんだと思うよ。ただし、この先もそうかどうかについては、自分はかなり悲観的だが。

それと、「世代」ということで言うと、実際の所、今の若い世代になると、「総中流」って何?というくらいでもおかしくない、経済情勢の中で育ってきているはず。だから、そういう世代については、こういう分析は当てはまらないのかもしれないし、そういう人たちには、この本で書かれていることも、あまりうまく伝わらないんじゃないだろうかと思ったりした。もちろん、子供は親の世代の影響を受けないわけにはいかないだろうし、家の中の雰囲気(家風みたいなもの)は簡単には変わらないし、そんな単純なものではないかもしれないが。
ただ、そういう層が主流になった時点で、世の中は大きく変わるのかもしれない。どういう形に変わるのかは分からないが。
(2017.1.21)

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