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感想「蟹工船」他

小林多喜二の小説を、手元の端末に入ってた青空文庫で見つけて、いくつか読んでみた。有名なプロレタリア小説の作家だが、今まで読んだことがなかった。「蟹工船」について、どこかで「冒険小説」として評価されている記述を読んだ記憶がうっすらあって、その辺の興味もあった。

「蟹工船」
酷い条件で働かされる労働者の話、くらいのイメージだったけど、荒れた冬のベーリング海をボロ船で行く中、残虐な作業監督者にどう立ち向かって生き延びるか、という話だから、確かに冒険小説のカテゴリーに含まれても不思議はないような内容。虐待されていた労働者たちが、どういう過程を経て立ち上がったか、というのがメインテーマであるにしても、彼らを動かしてるのは思想というより、根源的な怒りの発露だし、共産主義の匂いはあっても、そんなに露骨なものではなかった。迫力のある小説だった。
蟹工船の操業にロシアとの戦いという観点があったり、朝鮮人労働者への差別や、日本人の異常な勤勉さに触れたくだりがあったり、結構広い目配りも感じた。
悲惨過ぎる小説だけど、過酷な環境に置かれた人物たちの行動の描写には現実感があるし、こういうことが戦前は行われていたんだな、と思う。今はさすがに、ここまでの無茶は出来ないと思うが、利益や国策のためには労働者の犠牲は全く気にしないという監督者側の論理は、今時の政府や一部の経営者の論理と大差ないように見えるし、法律等の規制が緩められたら、容易にこういう状態に移行するだろうな、という気はする。

「党生活者」
共産党のオルグを主人公にした小説。でも、ばりばり思想的かというとそうでもなくて、当局の目をかい潜りながらの主人公の行動は、スパイ小説のようと思えなくもない。全てを犠牲にして、労働者を組織する任務に励んでいるが、その過程で、周囲に彼の行動による犠牲者が生まれていることも、はっきり描かれている。作家の意識としては、それくらい厳しいもの、ということなのか、正義感からの行動ではあっても、犠牲者を出していることについて無自覚な主人公に対し、批判的な気持ちも含まれているのか、という点については、今一つ判断しきれなかったが。
それにしても、これが書かれたのが1932年で、主人公のような、不当な状態を改善するために体制と対峙している人々が、大手を振って表に出て来られるようになるまで、この後、まだ13年もあったのかと思うと暗い気持ちになった。

「争われない事実」
「党生活者」の原型みたいな感じもある、ごく短い作品。そんなに強い印象はなかった。

「雪の夜」
思想性はあまり感じられない作品。こういうのも書いたんだなと思った。自意識過剰な主人公があれこれ思い悩む話で、内容的にはコメディだと思うんだが、書きっぷりが堅すぎて、そういう面白さがいまひとつ伝わってこない気がする。でも1930年代の小説だから、スタイルとしてはこんなものかもしれない。
(2017.2.25)

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