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感想「幸運な男」

「幸運な男」 長谷川晶一 インプレス
ヤクルトスワローズのピッチャーだった伊藤智仁の半生記。
タイトルは、彼が「悲運のエース」と言われているが、実は幸運な男だったのかもしれない、と著者が思った、というところから来ている。というか、智仁自身が、自分の半生を振り返って、ラッキーだったと言っているのだそうで。本書を読んでいると、確かにそうなのかもしれない、とも思えてくる。不運は不運だけれど、特別な能力を持って特別な経験をしたのも確かだし、それは多分に幸運に恵まれてのことだった。おそらく、大多数の人間と同じくらい、いいこともあれば悪いこともある半生だったんだろうと思う。ただ、その振れ幅が、並みの人間よりも大きかった。そして、幸運も不運も同じくらいあったんだとすれば、それをどう取るかは、本人の気持ち次第だろうな。

もちろん、93年の劇的なデビューと、実働わずか3ヵ月での故障による離脱、以降の苦闘が、本書の内容の中心になる。
93年の故障については、当時の野村監督による登板過多が原因だと一般的に思われているし、本書を読んでも、それは間違いではないと思えるが、その後、復活するまでの道のりが長かったこと、復活した後も元通りにはならなかったことについては、それ以降の対応に、いろいろと失敗があったことも、大きく影響していることが分かった。智仁自身が判断を誤って、無理をしてしまった面もあったらしい。そもそも、智仁が凄いピッチャーになれたのは、身体の柔らかさに恵まれていたからだけれど、それが故障の大きな原因でもあったということになると、93年にああいう劇的な形で居なくなるということがなかったとしても、早晩、故障を発生していた可能性が高いような気がしてくる。あの頃の日本では、今ほど、投手のコンディションに注意が払われていなかったし、知識も普及していなかっただろうから、こうした特別な身体を持ったピッチャーに、故障なく、キャリアを全うさせる環境はなかったんじゃないだろうか。
そう考えると、「不運」だったのは、そもそもそういう身体に生まれついて、プロ野球のピッチャーになってしまったことそのもの、とも思えてくるし、それはもう、運・不運で語ることではないような気がする。

とはいえ、やっぱり、読んでいて、かなりつらい気分になる本だった。この先、どういうことが起きるかというのが分かっているからね。智仁のキャラに悲劇性がないのが救い。智仁の人間性がよく見えてきて、いいやつだなあと思うし、読んでよかったとは思ったが。

それにしても、智仁のこうした経験が、スワローズにどれくらい生かされているんだろうと思う。昨年の秋吉のリタイアには、智仁の経験が生きたというようなことが、本書には書かれているが、この10数年、このチームがどれだけの選手を故障で失ってきたかということを考えると、疑わしくなってくる。好意的に考えれば、早め早めに手を打っているから、故障離脱の選手が多くなる、ということなのかもしれないけれど(とてもそうは思えない事例を、いくつも聞いてはいるが)。それにしては、故障から万全で戻ってくる選手が、少なすぎるようにも思える。 経験を生かせていないとしたら、それはチームの怠慢だよ。
やたらと故障からの復活を美談にしたがるが、そんなものは、本当はない方がいいんだから。

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