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感想「オンブレ」

「オンブレ」 エルモア・レナード 新潮文庫
レナードが、現代を舞台にした犯罪小説の前に書いていた、西部小説の代表作。未訳だったが、レナードの経歴が紹介されるときには、常に言及されていたから、ある種、幻の小説みたいなイメージを持っていた。原著は1961年の刊行で、今回、村上春樹の翻訳で、ついに邦訳。なぜ?、と思ったけど、村上春樹がレナードに思い入れがあったということらしい。彼がやりたいと言えば、出版社も、結構言うことを聞いてくれそうだし。
なお、短篇「三時十分発ユマ行き」が併録されている。

19世紀末のアメリカ西部が舞台で、白人とメキシコ人の混血として生まれ、幼い頃にアパッチ族に誘拐されて育てられた、複雑な出自を持つ男が、犯罪者の集団と対決する話。
ストーリーは必要以上にややこしくないし、ストイックな雰囲気の主人公は格好良くて、娯楽小説として、素直に面白かった。
ただ、必ずしも、単純にヒーローが悪者と戦う、という構図ではない。主人公は普通ではない育ち方をしているので、周囲の人間には彼が何を考えているのか、よくわからない。一方で、成り行きで彼と行動を共にする数人の人物も、それぞれ面倒な背景を抱えていて、利害関係や考え方の衝突が至る所に出てくる。西部劇映画からの連想で(というほど、西部劇映画も見てないが)、もう少しシンプルなヒーロー小説なのかなと思っていたが、意外に、複雑な内容を持っているように感じられた。特にアパッチ族の取り扱いについては、一面的な善悪で割り切れないものがあるように思える。そこに素直な面白さとは別に、小説としての深みも感じられる。内容が古びていないのは、そのあたりが理由かもしれない。
西部小説というのが、そもそもそういうものだったのか、それとも、西部小説の隆盛が終りかかった頃に登場したレナードの作品が、ジャンルの中で特殊な位置を占めるものなのか、その辺は知識がないので、わからないんだが、訳者のあとがきを読む限り、やはり主流のスタイルではなかったようではある。

レナードが後に書き始めた現代物の犯罪小説(現代物と言いながら、実は初期のものは、既に50年前の1970年頃だったりするんだが(^^;)との比較では、ヒーロー的な主人公の設定が、割と早い時期の作品と似ていると思う。本書の主人公は、単純にヒーローとは言いにくい言動をするが、後の犯罪小説でも、その辺はよく似ている。ただ、本書の語り手は、彼とたまたま行動を共にすることになっただけの人物なので、主人公は外側からしか描かれないから、彼の内面は、謎めいた言動としか見えて来ない。犯罪小説では、主人公の考えるプロセスなども、見えるように書かれていることが多いので、どういう人物なのかというのが分かりやすく、その辺は結構雰囲気が違う。本書の主人公のいかにもハードボイルド的な雰囲気は、後年の作品ではあまり見ないものかな、という気がする。
いかにも、ペーパーバックらしい小説、とは言えるのかもしれない。とにかく、主人公が格好いい小説。それが本書の一番の魅力だと思うので。

訳者があとがきで触れている、後年の作品に通じる個性的な悪役という点については、同感するけれど、本書では、早い時期の作品に近い、まだ比較的単純な造型だと思う。プロットがしっかりしている所も、そんな感じ。のちのレナードの小説で感じるつかみどころのなさみたいなところまでは(訳者が「ナックルボール的魅力」と表現している部分だと思う)、本書ではまだ見えていないような気がするのだけど。

なお、併録の短篇は、「オンブレ」の8年前(1953年)に書かれたものとのこと。こちらは、短い小説ということもあり、ごく単純な娯楽小説。素直に面白く読めた。

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