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感想「ベンドシニスター」

「ベンドシニスター」 ウラジミール・ナボコフ サンリオ文庫
1986年に邦訳刊行された時に入手したが、読まずに放ってあったもの。原著は1947年の刊行。

独裁者の支配が急速に進行する国で、追い詰められていく主人公を描いた小説。世界的に有名な哲学者である主人公は、独裁者の少年時代の同級生だったこともあり、国への協力を要請されるが、それを拒み続けることで、状況がどんどん悪化していく。

全体主義の恐怖を戯画的に描いた小説と思えるが(何となく「未来世紀ブラジル」を思い出しながら読んでいた)、著者自身はそこは重要ではなく、主人公が息子に対して抱く深い愛情が主要なテーマ、という趣旨のことを、「序文」(巻末にあるが)に記している。社会について描いた小説に見えるだろうが、そうした小説ではない、と言っている。
どこまで本心なのかは知らないが、そうなのかもしれないとは思える。確かに小説自体は、社会の在り方よりは、個人に焦点が合っていると思う。主人公は小説の冒頭で妻を失い、残された息子を愛するあまり、一種の麻痺状態にある。その影響で、周囲の状況にあまりにも無関心だし、甘く見てもいる。結果として、それでしっぺ返しを受けるので、そういう無関心なスタンスを取ることに対する、なにがしかの批判的なニュアンスを含むのかも、とも思えるのだけど、そういうわけではないのだろうな。

ただ、やっぱり、今の日本の状況に重ねてみたくなってしまう小説ではある。反知性主義とか同調圧力とか、独裁者の人物像も、容易に今の日本の姿を思い起こさせる。

実際の所、この小説には、文学的な遊びの趣向が色々と取り込まれているから、社会批評というよりは、多分に趣味的な小説だということは分かる。ただ、こちらはそういう要素に対応する知識を十分に持ち合わせていないし、多用されている言葉遊びを翻訳で十分に理解するのも無理。著者の企ての大半が伝わってきていない状態で、その意図を正しく受け止めるのは困難だから、素養のない人間にとっては、著者の意図とは関係ない所で勝手に理解する読み方になってしまうのも、仕方ないかな、という気がする。

あるいは、ずれたポイントでも読めてしまうくらい、しっかりした内容を持つ小説と言ってもいいのかもしれないけれど。ナボコフは全体主義化したロシアを逃れ、行った先のドイツでは、さらにナチスドイツからも逃れて、アメリカに亡命した人物だから、本人の意図とは関係なく、こういう状況を描くと、ただの背景ではないリアリティが生まれてしまうのだろうなと思ったりする。
(2018.2.24)

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