感想「アベルVSホイト」
「アベルVSホイト」 トマス・ペリー ハヤカワ文庫
いまさら、トマス・ペリーの新作(原著は2016年刊)が邦訳されるとは思ってなかった。17年ぶりの翻訳だそう。
警察官上がりで凄腕の私立探偵・アベル夫妻が、迷宮入りしかけている1年前の殺人事件の調査を依頼され、乗り出した途端に、命を狙われ始める。犯人は謎めいた男に雇われた凄腕の殺し屋・ホイト夫妻。
そういうわけで、「アベルVSホイト」。原題は後半以降に出てくるネタ。だからといって、ネタバレというほどのことでもないが、邦題の方がいいような気はする。
ディテールにこだわった、プロ対プロの厳しい駆引きを描いている所は、この作家の持ち味。女性の存在感が強い所もそう。夫婦同士の対決の構図だけれど、どちらも妻の方が比重が高いように思えた。
ホイトとアベルの対決は、緊張感があって読みごたえがあるが、事件の背景が見え始め、対決の構図が緩んでくると、話そのものも、すこし緩んできたような気がした。事件の真相が、案外軽く見えたせいだと思う。こちらの話はこちらの話で、もっと書き込んで、別の小説に仕立てることも出来たし、その方が面白かったんじゃないかなと思った。
そういうわけで、中盤まではかなり面白かったが、終盤はやや拍子抜けした。ただ、次々人が死んだり、結構血みどろになる話の割には、後味はすっきりしている。それも、これまでに読んだ、この作家の作品には共通して言えることで、いまいち強い印象が残りにくいという意味では短所なんだろうけれど、いやな感じが残らないのは長所だと思う。
チャウセシク独裁政権下のルーマニアで、国が子供を虐待していた話が少し絡んでいる。昨年末に読んだジャック・カーリイの「キリング・ゲーム」でも、この題材は取り上げられていた。アメリカで、この件がクローズアップされた時期があったのかもしれない。
(2018.4.5)
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