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感想「砂漠の空から冷凍チキン」

「砂漠の空から冷凍チキン」 デレク・B・ミラー 集英社文庫
原著刊行2016年、訳書刊行は今年8月の小説。
ちょっとふざけた感じのタイトルと、最初の数ページをぱらぱら読んで、軽い雰囲気のサスペンスを想像して読んでみたが違った。
著者は軽妙なタッチを意識して書いてはいるけれど、背景にあるのはシリアやイラクの悲惨な状況だし、少し前の時期の話とはいっても、この状態は現在も続いている(というか、当時よりさらに酷くなっているかも)。読んでいるとしんどくなって、中断するのを繰り返していたら、読み終えるまで、えらく時間がかかってしまった。

話の骨格は、1991年のイラクで、1人の少女が目の前で殺されるのを止められなかったことをきっかけに、人生が変わった2人の男が、22年後に似たような境遇の少女を救うべく、再びイラクに赴くというもの。かなり強引な導入には思えるけれど、そこから展開される話にはリアリティが感じられる。著者はこういう方面でのキャリアもあり、充分な知識を持って描いている印象。ネットで見かける、外国のメディアで報じられる(日本のメディアではあまり報じられない)、シリアやイラクの絶望的な状況が、しっかり再現されている。
登場人物の多くが、軍事組織ではなく、難民援護団体や赤十字のスタッフなので(ただし、軍事組織から転じてきた人たちの存在は、もちろん欠かせない)、より現地の住民の目線に近い所で話が進むし、それでなおさら、やるせなさが募ってくる。
あくまでも小説なので、書くことを手控えている部分もあるだろうし、都合良く話が進みすぎる面ももちろんあるけれど、最低限、あの地域でこんなことが起きているということを伝えるには充分だろう。
ちなみにタイトルの出来事は、ふざけた感じの印象とは裏腹に、イラクで難民に降りかかった、米軍によって引き起こされた悲惨な事件なんだけど、これは実際に起きたことだと言うから、なんとも…。

とはいえ、筆致はあくまでもやさしいし、サブプロットである、主人公の片割れ、初老のイギリス人ジャーナリストのイギリスでの暮らしに関わる話が所々に挟み込まれ、そこが息抜きになっている面もあるので、決して読みにくくはなかった。こちらも決して気楽な話ではないが、混乱した戦地よりははるかにマシなので。
読んでいて、度々中断はしても、先へ進む気は失せなかったし、ストーリー自体は楽しめたから、最後まで読んで良かったと思う。

主人公の片割れがジャーナリストということで、安田純平さんがクローズアップされた時期に、これを読んでいたのはタイムリーだったと思う。全く偶然だったけど。戦場にジャーナリストが行くことには意味がある、ということがよくわかる。
読み終わった後で、読む前にはほとんど見ていなかった帯や紹介文を改めて見ると、内容の雰囲気とはかなりかけ離れていた。そういう話じゃないだろ、という違和感は感じたのだけど、内容がそのまま表に出ていたら、多分自分自身も手に取らなかったかもしれないと思うと、これはこれでいいのかも、と思い直した。とにかく手に取ってもらわなければ、始まらないんだから。
とっかかりはどうであれ、これを読んで、こういう現実があると知る人がいればいいと思う。
(2018.11.18)

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