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感想「犯罪者」

「犯罪者」 ジム・トンプスン 文遊社
若い女が殺されて、幼馴染みの男が容疑者になる、という話だけれど、ミステリ的な展開はほとんどなくて、ひたすらトンプスンらしい殺伐とした混沌が描かれていく。そうした雰囲気自体はトンプスンの小説でお馴染みのものだけれど、単純に主人公が破滅していくという話にはなっていない。というか、明確な主人公がいない。
奇妙な人物がいろいろ登場するとはいえ、それでも途中までは、普通の犯罪小説のような結末を目指しているように見えなくもない。現実の社会で起きていそうな不条理な出来事を揶揄的に描いた、社会批判と取れなくもない部分もある。しかし、終盤、急激に異様な雰囲気になっていき、突然ブツッと、結末を投げ出したかのように終わる(というか、終わってない?)。
この異様さが、本書の最大の読みどころかも。

はっきりした主人公がいない分だけ、トンプスンが書こうとしているものが、より見えやすくなっているようにも思える。つまり、本書に限らず、トンプスンが多くの作品で書こうとしているのは、個人の人生(破滅)ではなく、社会の破綻(現実の社会というよりは、抽象的、観念的な意味での)と思えるし、それが本書では、とりわけ明確に見えるように感じた。
この、社会の破綻が描かれていると、自分が感じる所が、いくつかの評論でトンプスンの特徴として論じられている、キリスト教的な原罪意識とかいったあたりに通じるものなのかなと思う。自分はその辺の知識が乏しいので、あいまいな形でしか理解できないが。

本書を読んだ後で他の作品を読んだ方が、トンプスンはより理解しやすいかもしれない、という気もした。本書は比較的初期の作品だから、そういう読み方もあまり不自然ではないと思う。
(2019.1.24)

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