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感想「精神病院の殺人」

「精神病院の殺人」 ジョナサン・ラティマー 論創社
1935年に原著が刊行されたビル・クレインものの第1作。去年末に邦訳が刊行された。シリーズは全5作で、他の4冊は邦訳刊行済で既読。

精神病院に入院中の老女が手元に置いていた金庫が盗まれ、それを探すために、クレインが精神病患者を装って病院に入院するが、こっそり事件を調査しているうち、殺人事件が起きて巻き込まれる。
ハードボイルドと本格ミステリの中間に位置すると思えるシリーズだが、本書は謎解きを意識したプロットがかなりしっかり構成されていて、本格ミステリ側に引き寄せて論じられても、特に違和感は感じない内容と思った。クレインがやたらとオーギュスト・デュパンに言及しつつ、アクロバット的な推理を披露するあたりからも、著者に本格ミステリ的なスタイルへの意識があるのは明らか、という気はする。

ただ、これがシリーズ第1作ということを考えると、それほど単純ではないようにも思える。
シリーズの中では、本書が最も本格ミステリ寄りと思えるし(と言いつつ、「モルグの女」「処刑六日前」を最後に読んだのは大昔で、ろくに内容を覚えてないから、自信を持って言うには、そちらを読み直してみる必要があるだろうなあ)、2作目以降、その方向性が薄まっていくとすれば、著者が本格ミステリ的な小説を書こうとしていたという想定は、そう簡単には出来ない気がする。第1作でとりあえず様子をうかがって、次作以降でより自分のカラーを出していったとも考えられるし、デュパンへの言及が多いのも、まずは本格ミステリの読者層を意識した仕掛けだったのかもしれない。
また、シリーズ第1作ということは、読者はクレインというキャラクターに初めて接したわけで、冒頭でクレインは精神病患者を偽装して登場するが、これが本当に偽装なのか、実は名探偵気取りの本物の誇大妄想の患者なのか、少なくとも途中までは判断がつかなかったはず。実はそういう効果も狙っていたかもしれない。そのあたりも含めて、かなりハッタリを効かせた作品だったんじゃないだろうか。後続の作品を読んでしまっている身には、実感しにくいのだけど。
本書については、そういう所も意識して考えないと、間違った結論に行ってしまう可能性があるんじゃないか、ということを思った。

後続の作品を読んでいる読者にとっては、病院に患者として潜り込みながら、酒を手に入れて飲みまくるクレインは、いかにもいつもの姿だな、という感じだけれど、これが初見だった読者にとっては、どう感じられたのかな、と思う。とはいえ、さすがに病院患者なので、本書ではクレインも、酒以外で愉しむ場面はあまり多くない。遊びと仕事を混同しているような要素は、いまひとつ薄いようには思える。それでも、ユーモラスな語り口は十分に堪能できたし、クレインのシリーズのファンにとって、楽しめる小説だったと思う。
(2019.1.29)

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