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感想「さらば、シェヘラザード」

「さらば、シェヘラザード」 ドナルド・E・ウエストレイク 国書刊行会
ウエストレイクの初期の未訳作の翻訳。昨年6月に邦訳刊行されていたことに、年末に気付いた。書名は知っていたし、基本、ウエストレイクは見つけたら読む作家だから、買って読んだのだけれども、あとがきに書かれている、一部のミステリファンの間で伝説の作品だった、というのは知らなかった。90年代半ばくらいまでは、ミステリファンのコミュニティに、ある程度、繋がっていたけれど、そういう話を聞く機会はなかった。その後、1997年に若島正がミステリマガジンで本書を激賞して、さらに盛り上がったそうなのだけど、その頃にはもう、コミュニティとはほとんど切れていたし、ミステリマガジンを読むのもやめていたから、当然それは知らない。

ミステリじゃなくて普通小説。原著は1970年の刊行で、ドートマンダーもの第1作の「ホットロック」が出たのが同じ年。それも含め、著作リストを見ると、ちょっと転機があった時期、というふうに見える。
ポルノ小説のゴーストライトをやっていたライターが、締め切り目前で小説が書けなくなり、窮地に陥って悶々とする話。
出だしはそれこそ「ホットロック」のような、軽快なコメディ小説なのだが、話が進んで行くうちに、事態がどんどんとんでもない方向に進んで行く。一人称の主人公の語りと、彼が書く小説の内容が、かわるがわる出てくるが、次第にその境目が混然としてきて、不条理な雰囲気が強くなっていって、最終的には追い詰められた主人公の人格が崩壊したかのような状況にたどりつく。
それでも最後までコメディはコメディだし、主人公の苦闘ぶりがうまく書かれているので、すらすら読めて、面白い(もちろん、達者な翻訳の功績は大きいと思う。訳者は矢口誠)。そもそも、不条理なコメディというのは、ウエストレイクの芸風のうちだから、怪作と書かれているけれど、それほど意外な内容ではない気がする。

改めて著作リストを見てみると、ウエストレイクは、1970年前後の時期の作品が、一番面白いように思える。そう考えると、キャリアの中で彼が一番乗っていた時期なので、こういうややこしい構造の小説も、スイスイ書けたのかな、と思った。本の作りにいろいろと仕掛けがあるあたりにも、作家の勢いが感じられるような気がする。
ウエストレイクは(スターク名義も含めて)60年代前半の初期の犯罪小説が、スタイリッシュで格好よくて好きだけれど、本領は、こういう技巧的な小説にあるように思う。
(2019.2.3)

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