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感想「ヒッキーヒッキーシェイク」

「ヒッキーヒッキーシェイク」 津原泰水 ハヤカワ文庫
3人の引きこもり(ヒッキー)が、「カウンセラー」に率いられて、ネットを使ったイカサマっぽいプロジェクトに関わっていくうちに、世の中と折り合う方法を、つかみかけていく話。

3人以外にも引きこもりや、似たような経歴を持った人物が何人も登場する。人物の背景をさらっと説明するような書き方で、ひとつひとつはそんなに細かく書き込まれていないけれど、世の中の生きにくさの描かれ方にやたらとリアリティがあって、刺さってくるし、共感してしまう。
自分は引きこもりだったことはないけれど、紙一重に近い所にいたという自覚があるし、そうならなかったのは、いくらか運がよかっただけと思っているので、なおさらそう感じるんだろう。
そういう登場人物たちが、自分の属性を変えることなく、うまく生きていける手掛かりを掴みかけるというポジティヴな話だから、気持ちよく読めた。設定の深刻さを裏返していく、おとぎ話的なたのしさがあったと思う。
ちなみに、主人公的な3人の登場人物は、引きこもりとは言っても、極限状況まで追い詰められているわけではない。しかも、それぞれ特殊なスキルを持っていて、それを生かして活路を見出していくので、引きこもりがテーマといっても、本当に悲惨な状況を描いた小説ではない。だから、「おとぎ話」だと思うのだけれど、あくまでも娯楽小説なんだから、それで意味がなくなるわけではないと思う。

場面の切替の速さや文章のテンポも好きなタイプの小説だったが、時々、妙に古めかしい描写が混じるのが不思議だった。その辺は、読み終わって著者の略歴を見たら、ほぼ同世代だったので納得した。違和感は、題材の取り方や登場人物の年齢設定から、著者はもう少し若い人かと思っていたからだったので。もっとも、そう知ってみると、どの辺の世代がこの本の読者層なんだろう、とは思ったけれど。

まあ、それくらい、この著者のことは何も知らなかったということで。
著者の名前を何となく知っている程度だった本書を読んでみたのは、元々の版元だった幻冬舎が、著者に言いがかりを付けて、文庫化を見送った事件があったから。本書は、ハヤカワ文庫がそれを引き受けて刊行したもの。自分には、この事件は幻冬舎側が不当な言いがかりをを付けているようにしか見えなかったので、著者を応援するような気持ちで買ったのだけど、読んで良かった。こういうことでもなかったら、読まなかった小説だなと思うが、自分にとっては事件があって良かった、ということになるんだろうか?
(2019.1.5)

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