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感想「鉄の門」

「鉄の門」 マーガレット・ミラー 創元推理文庫

そういうわけで、こちらが先日出たばかりの改訳版。これで、ハヤカワ文庫から出ていたミラーの長篇4冊は、全て創元が出し直したことになる。

こちらも多分、20数年ぶりの再読。「鉄の門」は邦訳されたミラーの長篇の中では、最も早い時期のもので(1945年刊。ちなみに「まるで天使のような」は1962年)、個人的には、古さが感じられる分、比較的愛着のない作品だった。
今回の再読でも、第一部序盤での、いかにも作り物くさい登場人物の描写を読んでいて、やはり昔の小説だな、という印象は拭えなかった。主要な登場人物で、人間味が感じられるのは、探偵役のサンズ警部くらい。しかし話が本格的に動き始めると、それはあまり気にならなくなる。プロットが話の主体になって、劇的な展開が多く、進行も速いので、必要以上に人物を描き込んでいない(描き込む余裕もない)からだろう。また、第二部でかなりの部分を占める精神病院の場面では、入院患者たちが異様な言動をするけれど、それは病気の人たちだから、ということで納得してしまうし。
プロットが動き始めてからの達者なストーリー展開は、著者の巧さを感じるが、いかにもミステリ的な話の作りは、改めて考えると、「まるで天使のような」の頃とは別物のよう。
先日書いたように、「まるで天使のような」は、今読むと、自分にはミステリの要素よりも、登場人物の人生を描こうとした小説のように思える。それに比べて、「鉄の門」はかなり純粋なミステリじゃないかな。不安感や苦悩を抱えた登場人物たちという点で共通点はあるのだけれど、「まるで天使のような」のそれの大半が、登場人物の内面から滲み出してきたような根源的なものであるのに対して、「鉄の門」では、何かの犯罪を犯してしまった、誰かを信じることが出来ない、というような、かなり具体的な原因に由来するものにとどまっているように感じる。
ただし、これは個人の感想だし、これをミラーの作風の変遷とまで言っていいのかどうか、というのも、前後の作品をもう少し読み直してみないと、判断がつかない、とは思っている。「まるで天使のような」がイレギュラーな作品ではないという印象は持っているけれど、この前後の「見知らぬ者たちの墓」とか「心憑かれて」あたりは押さえないといけないと思う。ミラーの長篇の翻訳のされ方は、時期的にばらつきがあって、順序も発表順ではなかったので、正直言って、作風の変遷をしっかりと把握出来ていない気がする。こうしたことを考えるのであれば、一通り読み直してみるべき、と思うが、そこまでやれるかどうか。

なお、あくまでもミステリ的な話だが、サンズはミルドレッドの日記を見つけたことで、ミルドレッドの死の真相を確信するのだけれど、具体的になぜそれで確信するのに至ったのか、というあたりが書かれていないように思う。この日記は決定的証拠とは言えないし、そうした疑念を深めるというレベル以上の意味は持たないと思うのだけれど。パズラーではなく、心理的なミステリだから、この程度でいいのかもしれないが、ちょっと弱いなと思った。
(2020.3.16)

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