« 「わたしは分断を許さない」 | トップページ | 感想「プロ野球入門」 »

感想「一九七二」

「一九七二」 坪内祐三 文藝春秋
2003年刊行で、「諸君!」での2000年〜2002年の連載の単行本化とのこと。 副題は「「はじまりのおわり」と「おわりのはじまり」」
1972年に日本の社会の大きな転換点があったと仮定して、1972年前後に発生したエポックメイキング的な出来事を拾っていく内容。並行して1958年生まれの著者が、当時の思い出を語っていく。

自分は1972年には10歳にもなっていなかったし、地方在住だったから、東京で生まれ育った、当時ティーンエイジャーの著者とは、だいぶ感覚のずれはあるのだけど、あの頃、そういう出来事があったという歴史の共有感覚は確かにある。 こんなことがあったという子供の漠然とした記憶を、はっきりした出来事として見せてくれるところは、非常に興味深かった。とりわけ、かなりのページを費やして書かれている連合赤軍の事件は、ここまで細かく書かれたものを今まで読んだことがなかったので、いろいろ考えさせられた。 ちなみに、著者は当時の資料に丹念に当たって執筆していて、著者のバイアスはあるにしても、資料に基づいた正確で公正な内容なのだろうという、記述に対する信頼感もあった。

しかし、この本の前提となる、1972年あたりに「歴史意識」の転換があったという仮定については、一方的な思い込みなんじゃないだろうかという気持ちが抜けなかった。 著者も、テーマとして大きく掲げている割には、あくまでも話のとっかかりという感じで、特定の年を転換点とする考え方に、それほど固執しているわけでもないようには感じる。物事の感じ方や考え方は時代が変わるにつれて変わってくるものだから、その変化を論じるという観点では、本書の意味は損なわれていないとも思う。ただ、テーマ設定を離れてしまうと、今度は、これは著者の単なる思い出話じゃないのか、という気もしてくるのだけど。著者はこの文章を書いた時、まだ40代前半なので、少年時代の思い出話を得々と語るには、少し若過ぎないかという気はしてしまった。

簡単にまとめてしまうと、自分はこの本を、1972年前後の過去の記録の本としては興味深く読んだけれど、おそらく著者が意図していた社会評論としては、それほど感銘は受けなかった、という感じ。ただし、現時点で、この本が出た2003年から20年近く経過していることは、考慮するべきだろう。この20年で1972年はさらに遠い昔になり、その当時に起きた変化の意味も、随分変わってきていると思うので。 それこそ、1972年頃以上に意味を持つ転換点を、その後の時代に見出すこともありうるし。たとえば2011年。

ちなみにこの本を、なぜ刊行から20年近くも経った、今読んだのにはいきさつがある。これは刊行当時に知人から、興味がありそうな内容だから、と言われて貰ったが、「諸君!」に連載されたようなものを読む気にはならなくて、ずっと放置してあった本だった。今年の年始めに部屋を片付けた時に、ついに読まずに処分する気になったが、そのタイミングで著者が亡くなった。その後、あちこちで見かけた追悼文が、どれも著者に好意的なものだったので、処分する前にせめて読んでみようと思ったのだった。
とりあえず読んでみてよかったとは思う。本をくれた知人が、自分が興味がありそうと思ったのも、間違いではなかった。ただし、そこまで積極的になれる内容ではなかった。もしかすると、著者の本領が発揮された作品が、他にもっとあるのかもしれないが。また、それこそ2011年を、この著者がどう捉えたのか、という点には興味がなくもない。それを探して読んでみようとまでは思わないけれど。
(2020.2.7)

|

« 「わたしは分断を許さない」 | トップページ | 感想「プロ野球入門」 »

小説以外の本」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 「わたしは分断を許さない」 | トップページ | 感想「プロ野球入門」 »