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感想「タボリンの鱗」

「タボリンの鱗」 ルーシャス・シェパード 竹書房文庫
「竜のグリオールに絵を描いた男」に続く、グリオールものの作品集。中篇(ノヴェラ)2篇が収録されている。
表題作はタイムトラベルの要素も組み込んだ、怪獣物っぽい小説。いろいろなテーマ・要素がちらついているのも感じられるけれど、過去の世界では呪いを掛けられる前の若いグリオールが飛び回るし、(物語上の)現在の世界でのグリオールの暴れっぷりも強烈で、怪獣物小説としての面白さに、その他の印象が圧倒された。
2作目「スカル」はかなりトーンが違う。かなり政治的なものを感じる。もっとも、併録されている著者による自作へのコメントに、印象がかなり引っ張られてしまっている気はする。グアテマラをイメージして書かれている小説とのこと。この作品の背景の時期(著者のコメントにある、グアテマラでの政府によるスペイン大使館襲撃は1980年の出来事らしい。ただしこの小説が発表されたのは2012年)には、中南米の国の多くが独裁者に支配され、反対勢力の虐殺などが頻繁に起きていたから、それを目の当たりにしてきた著者が書く小説が、こうした内容になるのは必然的とも思える。というか、そもそもシェパードには、そういう要素のある小説を書く作家というイメージを、持ってもいた。
人が虫けらのように扱われる社会への絶望が感じられる、ペシミスティックな小説という印象。さらに、そうした小説の背後にある現実に対して、アメリカ人である著者が、第三者的にしか関われない疚しさのようなものも、主人公の描写に滲んでいるように思う。そして、そこでより直接的に状況に関わろうとすれば、かえって事態を悪化させてしまう不毛感も。

ちなみに、読みながら、コスタ=ガヴラスの映画「ミッシング」を思い出していた。

それからもうひとつ、かつての日本は、この小説のアメリカの立場だったと思うんだが、今はグアテマラの側にどんどん滑り落ちているのでは、という恐怖を、近頃は感じている。
(2020.4.3)


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