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感想「アバ、アバ」

「アバ、アバ」 アントニイ・バージェス サンリオSF文庫
アントニイ・バージェスといえば、「時計じかけのオレンジ」がとても有名だが、読んでいない。これが初めて読むバージェス。

サンリオ文庫がなくなった(もしくは、なくなりかけた)タイミングで、サンリオ文庫と見れば、とりあえず買ってた時期に入手した本。とはいえ、それほど関心を持てないまま、ずっと埋もらせてたが、おそらく30年以上を経て、ついに読んだ。 多分、古書で入手したと思うんだが、新刊で買った可能性もあるかもしれない。
原著は1977年の刊行、邦訳の刊行は1980年。

「SF」文庫とはいえ、当時のサンリオSF文庫には珍しくなかった非SF小説。19世紀初頭、結核の療養でローマに滞在していたイギリスの詩人ジョン・キーツが、そのままローマで亡くなるまでの日々を描いている。キーツについてのこの辺のいきさつは史実らしいが、本書の内容は、あくまでもフィクションだろう。

キーツ(と、著者自身)の母語の英語と、統一前のイタリアのイタリア諸語(イタリアの言語が「イタリア語」に統一される前で、「方言」が各地の標準語になっている)による詩作を題材にした、さまざまな言葉遊びや言語論が、本書の内容のかなりの部分を占める。というわけで、翻訳でどこまで原著の意図が正確に伝わっているんだろう、と考えながら読むことになった。正直言って、言葉遊びが多くを占める小説を翻訳で読むことに、どの程度意義があるんだろう、とは思う。読みながら、いろいろと考えることは出来るから、意味がないとは思わないけれど、どれほど訳者が努力した翻訳でも、原文のニュアンスを正確に理解して、楽しむことは不可能だ。
 

訳者による解説には、主題は詩と宗教であり、英語が母語のキーツと、ローマ語が母語の詩人のベッリが、言語が違うにもかかわらず、詩(ソネット)とはどういうものかを考えることや、宗教という共通基盤を通して、理解し合う姿が描かれている、というようなことが書かれている。小説そのものは、わかりやすく翻訳されているので、その辺は何となく感じ取れたし、ある意味、それが自分が前段で書いた疑念に対する、回答でもあるのかもしれない。とはいえ、言葉遊び的な部分を正確に理解出来ないままで、書かれている内容を十分理解出来ていると言えるのか?、と思うと、やはり相当心もとない。
裏表紙に記載された本書の内容紹介は、さらに破壊的で、ほとんどわけがわからないし。

史実的な部分は興味深かったし、本書の後半部に収録されているベッリのソネットは、聖書に対する辛辣な見方が感じ取れる面白いものだったが(ただし、これらもどの程度、原文の意図が伝わってきているのかはわからない)、仕方ないとはいえ、テーマの本質的な部分については、消化不良のままだと思う。

結核の蔓延が背景にある所が、COVID-19が世界で流行している現在とかぶって見える部分があり、たまたまこのタイミングで本書を読んだのが、ちょっと不思議な感じ。ただし、本書は、伝染病そのものを中心に据えた内容ではない。
(2020.5.10)

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