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感想「魂の沃野」

「魂の沃野」 北方謙三 中公文庫
久々に読む北方謙三。2016年に刊行され、昨年文庫化。
加賀の一向一揆を扱った小説。加賀の一部を領有する地侍の一族の若者が、武士と本願寺門徒の間で揺れる時代の中で、成長していく姿を描いている。
元々、著者の意識としては、武士が日本を支配している時代に、武士ではない民衆がひとつの地域を約100年の間、統治していたという点に関心があったとのこと。その民衆の力の源泉が宗教だった以上、宗教とは何かという所にも踏み込まないいけない。主人公を、本願寺門徒とは距離を置きつつ、敵視することもない人物に設定して、宗教について考えさせながら話を進めていく。
「楊令伝」で方臘が描かれた時は、宗教勢力の得体の知れない不気味さが前面に出ていたように思うけれど、本書では、宗教勢力といっても、それを仕切る側には、世俗の権力と同じ欲得や権力争いの構図がある、というあたりを描いている感じがする。その宗教に突き動かされて戦場に向かい、殺戮される民衆という構図は同じだけれど、今回は「民衆」の側に入り込んで小説を書いている分、もう少し深い所まで踏み込もうとしたのかな
、という気がした。
とはいえ、宗教そのものに関しては、そこまで深入りはせずに話をまとめた印象。あくまでも主人公の挫折と成長の物語がメインだと思う。北方謙三の日本史を題材にした小説は、実在の人物を中心に置くことが多いが、本書の主人公は架空の人物で、その影響か、青春小説的な軽やかさがあるように感じた。「岳飛伝」の雰囲気に通じるものがあるのかもしれない。以前の小説とは、いくらか方向性が変わっていると思う。

日本史に題材を取って小説を書くのはそろそろ終わり、というような著者のコメントもあるようで。北方謙三の日本の歴史を扱った小説は好きで、ずっと読んできたけれど、ぼちぼちおしまいなのかもしれない。大陸を舞台にした描いた小説は、まだまだ続きそうだけれど。
(2020.6.6)

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