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感想「耳をすます壁」

「耳をすます壁」 マーガレット・ミラー 創元推理文庫
原著は1959年の刊行で、邦訳は1990年。これも多分、最後に読んでから、20年以上経っているはず。原著の刊行順としては、「殺す風」と「見知らぬ者の墓」の間。

メキシコ旅行に出掛けた女性の友人2人連れの片方が、ホテルの窓から転落死する事件が起きる。もう1人の女性(エイミー)も負傷し、夫が迎えに行ったが、夫だけが家に戻って来て、妻は療養に行ったと言う。女性の兄が夫の挙動に不信を募らせ、妹の身を案じて、私立探偵に調査を依頼する。

登場人物の大半が、心理的に安定感のない人物だが、彼らの心理の掘り下げよりは、ミステリらしい展開が描かれている場面の比重が高く、サスペンスが主体になっている作品と感じた。 この辺は後続の「見知らぬ者の墓」「まるで天使のような」とは、方向性が少し違っているように思う。
エイミーは、周囲の意向を常に気にかけて自分の意思が表に出ない、いかにもミラーの小説らしい人物。しかし、そもそもエイミーが消息不明になることが題材の小説なので、彼女自身の心理が描かれる場面は少ない。結果として、ストーリーはサスペンスの比重が高まっている、という印象。というより、そういう小説の作りになっている、というべきか。 
また、ユーモラスな描写が多く、コメディ的な面白さが、かなり強く出ている印象。

そうした要素があいまって、娯楽小説としての完成度は、かなり高いと思う。ただ、結末がかなり強引な展開になっていて、そこが欠点になっている気がした。しかも、最後に、真実はどちらか分からない、というような余韻を残そうとしているように感じるのだけど、結局、どっちでも大差ないのでは、と思ってしまったので、あまり感銘を受けなかった。
傑作になり損ねた作品、という印象が残った。
本書が「殺す風」と「見知らぬ者の墓」の間に来るのは、なんとなく分かる気がするのだけど、そこをはっきりさせるには、やはり「殺す風」も再読してみるべきなんだろう。
(2020.7.7)

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